研究課題
本研究の目的は,有機液体シンチレータを用いたアンフォールディング法による中性子エネルギースペクトルの測定において,シンチレータに入射する中性子の位置・方向に依存しないスペクトル導出手法の確立とその適用である.中性子場での測定において球形状以外の検出器を使用する場合,中性子から見ると検出器の幾何断面積は位置と方向に大きく依存する.これを解消するために,シンチレータ内の中性子飛跡長から求まる面積でスペクトルを除する手法を提案し,依存性がないことの検証を行う.これにより,今まで測定が難しかった迷路中などの入射位置および方向が特定できない場所での測定が可能となる.その適用として,高エネルギー加速器施設内でのエネルギースペクトル測定を実施し,中性子輸送に関する系統的なデータを取得する.平成30年度では,中性子応答計算コードの改良,手法の検証,スペクトル測定実験を実施した.計算コードの改良点は,反応の物理モデルがエネルギーによって変わるためエネルギーに対して不連続な応答となることの解消,中性子飛跡長計算の関数の導入である.検証では,シンチレータ内での中性子の反応確率と飛跡長の関係を整理することで,反応確率が小さい場合は依存性がないことが示された.しかしながら,実験で用いる検出器では相互作用確率が十分に小さいとは言えないため,改良した計算コードを用いて更なる検証を行った.その結果,入射位置および方向依存性に起因する差異は,アンフォールディング法による再現性の悪さに埋もれることが分かった.スペクトル測定の実験は,欧州原子核研究機構(CERN)の 24 GeV/c 陽子ビームを利用した混合粒子場施設(CHARM)で実施した.迷路中,上流から下流に向けて複数点で実験データを取得した.
1: 当初の計画以上に進展している
平成31年度に計画していた手法の検証ができたことにより,当初の計画以上に進展している.
エネルギースペクトル導出のために必要となる光出力校正の精度を向上させる.焦点は,校正点取得手法が報告されていない高光出力領域である.2点の校正点取得を考えており,1点目は連続エネルギー陽子測定によるシンチレータ中を突き抜けと停止する境界の点,2点目は宇宙線ミュー粒子の測定によるものである.連続エネルギー陽子は加速器からのビームを標的に照射して生成させる.また,連続エネルギー陽子測定で今実験限り有効な校正を施し,ミュー粒子が作る付与エネルギースペクトルのピーク値を光出力換算することで校正点を得る.平成31年度にCHARMで測定した実験データの解析を行い,中性子エネルギースペクトルを導出する.上記の光出力校正点の有用性は,ここで確認する.実験値は,モンテカルロシミュレーションコードの計算値と比較を行う.しかしながら,幾何形状が複雑であること,測定箇所までの遮蔽が厚いことから,膨大な計算時間が必要となることが予期される.高エネルギー加速器施設の放射線遮蔽のためのデータとして線量当量が重要である.そこで,実験で得られるエネルギースペクトルから線量当量に換算する.しかしながら,測定で得られたスペクトルは円筒形状の検出器で測定されており,線量当量換算係数で想定されている球とは形状も大きさも異なる.換算の検証を測定手法を検証した際と同様にして行う.得られた線量当量は,上記のモンテカルロシミュレーションコードの計算値,さらには迷路中の線量当量を計算する簡易コードによる値と比較・検討を行う.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件)
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A: Accelerators, Spectrometers, Detectors and Associated Equipment
巻: 906 ページ: 141~149
10.1016/j.nima.2018.07.079