本研究の目的は,有機液体シンチレータを用いたアンフォールディング法による中性子エネルギースペクトルの測定において,シンチレータに入射する中性子の位置・方向に依存しないスペクトル導出手法の確立とその適用である.中性子場での測定において球形状以外の検出器を使用する場合,中性子から見ると検出器断面積は見る場所によって大きく変化する.これを解消するために,シンチレータ内の中性子飛跡長から求まる面積でスペクトルを除する手法を提案し,依存性がないことの検証を行う.その適用として,高エネルギー加速器施設内でのエネルギースペクトル測定を実施し,中性子輸送に関する系統的なデータを取得する. これまでに,アンフォールディング法の精度向上のための高光出力校正点取得,中性子の入射位置・方向依存性調査,実際のスペクトル測定実験を実施した.高光出力校正点は連続エネルギー陽子測定によるシンチレータを突き抜けと停止する境界の点から校正点を得ることで,今まで取得できなかった大きな光出力値で校正点が得られるようになった.位置・方向の依存性は,中性子応答に差異はあるが,アンフォールディング法による再現性の悪さに埋もれる程度の差異しかないことが判明した.スペクトル測定実験は欧州原子核研究機構の混合粒子場施設で行われ,前述の光出力校正点を踏まえてデータを解析してスペクトルを導出した. 最終年度では,スペクトル測定実験と比較・検証するために,シミュレーションコードによる詳細体系での計算を実施した.入射エネルギーが高いこと,体系が広域に渡ることから,多くの時間を要している.また,シミュレーションコード間の比較を行うために,追加で,異なるシミュレーションコードでも同一の計算体系を構築し,計算を開始した.
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