研究実績の概要 |
本研究は、直線偏光アンジュレータ放射の2次光が反転した位相分布をもつことに着目し、2台の直交した直線偏光アンジュレータ放射を重ね合わせることで、近年注目を集めている光渦やベクトルビームといった新奇な光を放射光ベースに開発することを目的とする。前年度に自然科学研究機構分子科学研究所の低エミッタンス放射光蓄積リングであるUVSOR-IIIを用いて、ラジアル偏光と呼ばれる偏光ベクトルが放射状に分布したベクトルビームの発生に成功した。2台の直列に並んだアンジュレータを互いに直交した直線偏光モードで動作し、アンジュレータの間に設置した偏向電磁石で電子ビームに遅延を与えることで、光の重ね合わせの位相を制御する。この手法により2019年度は大気中で実験可能な波長266 nmおよび355 nmの深紫外領域で干渉光の偏光状態を制御し、偏光子を用いた光渦放射光の抽出を試みた。ナイフエッジによる回折パターンを観測する実験を行ったが、光渦発生を特徴づける特異点の観測には至っていない。主因として、アンジュレータ配置が直列であることから観測点でのビームサイズが異なり、強度差をもった干渉により光渦発生に必要な偏光状態が得られていないことを検討している。本助成は2019年度で終了するが、引き続きアンジュレータ光の重ね合わせによる光渦発生の開発を行っていく予定である。本研究の一部を、通常光源では実現の難しい波長帯の放射光による光渦およびベクトルビームの新しい応用開拓を目指し、International Meeting for Young Researchers "Frontiers in Imaging Probes and Technologies" (2019年5月, 愛知県岡崎市)で報告した。
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