研究課題/領域番号 |
18K18308
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
保坂 勇志 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 次世代放射光施設整備開発センター, 主任研究員(任常) (90645558)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | EUVリソグラフィ / レジスト / 電子線 / EUV / 電子散乱シミュレーション |
研究実績の概要 |
量子ビーム最大の産業応用である極端紫外線(EUV)リソグラフィの利用推進を目指し、EUVレジスト性能をEUV光源に頼らず電子線(EB)リソグラフィによって評価する手法について研究を行っている。レジスト性能評価法の確立は具体的には二つのアプローチにより進められており、一つはEUVを模擬する超低エネルギーEB加速器構築によるEUV反応機構の解明、もう一つはEBとEUVの電子散乱挙動の違いの解明である。 一つ目のアプローチである超低エネルギーEB加速器構築によるEUV反応機構の解明に関しては、EUV照射の特徴的な二次電子分布を再現するための100-200 eV程度のEB照射装置の改良を進めており、真空ポンプ・真空計などの更新や、集束レンズの調整によりレジストへの様々な条件での照射が可能となった。実際に超低エネルギーEBを照射したサンプル表面を原子間力顕微鏡により観察することで、EBの進入長に見合ったナノメートルオーダーの形状の変化が確認できた。この装置はEUVとEBの線種の違いによる影響を明らかにするために必要であり、研究上重要な装置である。 また、これに関連してEBと短パルスEUVをレジストに照射して生成物の違いをみる実験を実施しており、本年度これに関する成果が査読付きのジャーナルに掲載されている。 もう一つのアプローチであるEBとEUVの電子散乱挙動の違いの解明では、EUVレジスト性能をEBを用いて評価する際に必要な散乱電子影響の補正算出のため、電子散乱モンテカルロシミュレーションの検討を進めている。また、シミュレーション精度の検証のため、EB描画装置、EUV描画装置を用いて実際にナノパターニングを実施し、原子間力顕微鏡を用いて得られた現像パターンの測定を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一つ目のアプローチである超低エネルギーEB加速器構築によるEUV反応機構の解明では、100-200 eV程度の超低エネルギーEB照射装置の構築が進んでいる。初年度に行った真空ポンプ・真空計などの導入・更新に加え、本年度は集束レンズを用いた照射する超低エネルギーEBのサイズ変更の機能を導入し、様々な条件でのレジストへの照射が可能となった。実際にレジストへの照射と原子間力顕微鏡による観察ではEBの進入長に見合ったナノメートルオーダーの形状の変化が確認されており、おおむね順調に進展している。 また、これに関連して行った短パルスEUVとEBをレジストに照射して生成物の違いをみる研究では短パルスEUV照射時に特異なレジストの高感度化現象が確認されており、この成果に関してまとめた論文が査読付きジャーナルに掲載されている。 もう一つのアプローチであるEBとEUVの電子散乱の違いの解明では、電子散乱モンテカルロシミュレーションの検討を進めているが、1 keV未満のエネルギーの電子を計算に入れ込むことにはまだ成功していない。シミュレーションコードの開発チームとも連絡を取り合い進めているがこの点ではやや遅れが見られる。また、シミュレーション精度検証のため実施したEB描画装置、EUV描画装置によるナノパターニングに関しては、詳細な現像パターン測定が実施されており、シミュレーション結果との比較に向けおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
一つ目のアプローチである超低エネルギーEB加速器構築によるEUV反応機構の解明では、超低エネルギーEB照射装置の照射ビームサイズ変更ができるようにした。今後、本装置を用いてレジストサンプルへの照射を行い、形状観察・化学分析を実施する。構築した装置で照射したサンプルでは深さ数十ナノメートルまでの最表面のみしか化学変化せず、その極端に高い表面線量が原因となり線量率・照射サイズに依存した照射効果の違いがみられている。表面での変化観察に適した原子間力顕微鏡やX線光電子分光による分析を行い、EUV照射とEB照射の反応の違いの解明を進めていく。 もう一つのアプローチであるEBとEUVの電子散乱の違いの解明では、これまで一般に行われてきた1 keV以上のエネルギーの電子が対象のモンテカルロ電子散乱シミュレーションに加え、1 keV未満のエネルギーの電子を取り込んだ形のシミュレーションの検討を進めていく。これに関してはシミュレーションコードの開発チームとの協力が必要である。 また、EB, EUV描画装置によるナノパターニングに関しては原子間力顕微鏡を用いた詳細な現像パターン測定を実施したところであり、今後は実際の現像パターンとシミュレーションでの計算結果を比較し、感度や解像度といったレジスト性能の評価精度の向上を目指していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
超低エネルギー電子線照射装置を用いた実験で新たな試薬を購入する予定であったが、汎用的な電子線レジスト材料を利用することができたため、当初の見積もりより少ない支出で研究を遂行することができた。 次年度に持ち越して、翌年度分として請求した助成金と合わせ、試薬調整環境の整備・原子間力顕微鏡に用いる測定用消耗品の購入・モンテカルロシミュレーション計算用ソフトウェア購入などに充てる予定である。
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