本課題では、有機無機複合材料などの高分子材料の表面、階層界面や有機/無機境界面の主要分子の分布や濃度をミクロンレベルの空間分解能で三次元可視化する高度分析技術の確立を目指した。材料表面の分析手法は飛行時間型2次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いる。申請者らはこれまでに、MeVエネルギーの高速クラスターイオンの固体への照射実験を通して、2次分子イオン放出量がクラスター構成原子数の増加とともに非線形に増大することを明らかにした。そこでSIMSの1次イオンに、高速クラスターイオンの中でも特にスパッター収率の優れた高速C60イオンを用いることで、従来のイオンビームでは困難であった有機無機複合材料などの高分子材料の主要分子に対する高精度な分析を可能にする。タンデム加速器で最大9MeVまで加速したC60イオンビームをミクロンレベルのビーム径に集束するために、非常に高い精度を有する静電型四重極レンズを新たに設計・製作し、更に専用ビームラインの整備及びビーム径の計測分析技術を構築した。申請者らがこれまでに開発・実用化したC60イオン生成技術を更に発展させ、マイクロビーム化に必要なビーム強度を有する世界最高強度のC60イオンビームの加速に成功すると同時に、世界初の高速C60イオンマイクロビーム(1マイクロメートル径)の形成に成功した。無機材料に対するデモ計測では、材料を構成する分子分布の2次元マッピングをミクロレベルの高分解能で取得できることを確認した。
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