研究課題/領域番号 |
18K18310
|
研究機関 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
河口 彰吾 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 研究員 (10749972)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | その場構造計測 / 時間分解計測 / 放射光粉末X線回折 / ガス雰囲気下 |
研究実績の概要 |
本研究では、そのナノ機能空間へのガス吸着・脱着過程を明らかにするために、ミリ秒時間分解能を持つガス圧力制御システムと同期し、放射光の高エネルギーX線を利用して空間分解能を向上させた高精度粉末回折データが取得可能な時間分解構造計測システムの構築を目指している。 今年度は、半導体検出器を新たにカメラ長220mm程度に設置し、外部トリガーとガス圧力制御システムを同期させることにより、放射光粉末回折測定での計測時間を最短で10ms程度で可能とさせた。また、一定圧を瞬時に印加するガスショットモードと、圧力を掃引しながら連続計測を行う測定手法を開発した。前者では、吸着時の構造変化から速度論的な解釈を行うことができ、これまで、多孔性配位高分子CPL-1のガス吸着時の速度定数を導出することに成功している。これらの解析では、数千データに及ぶ回折データを数秒で解析可能なソフトウェアをLabviewとPythonで独自に構築したものを利用している。また、空間分解能を高めるために新たに小型イメージングプレート検出器を開発し、高エネルギーX線を用いることでQ~38Å-1程度まで統計精度の良いデータを得ることに成功している。また、局所構造解析に関連してその解析法や実験技術を習得するため、フランスの放射光施設ESRFに滞在し、実験および解析法について議論を行った。現在、開発した装置やソフトウェア、成果をまとめた論文を執筆中であるとともに、今後、他物質にも適用しながら構造ダイナミクスと物性・機能との相関解明について議論を進めていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、当初の目的計画どおり、ガス圧力制御システムを改良し、可搬型かつ10msでのガスシステムとの通信を可能とし、ガス圧力制御下での連続計測を可能とした。また、一定圧を瞬時に印加するガスショットモードと、圧力を掃引しながら連続計測を行う測定手法を開発した。時間分解データに対しては、数千データに及ぶ回折データを数秒で解析可能なソフトウェアをLabviewとPythonで構築した。また、多孔性配位錯体のガス吸脱着過程における時間分解粉末回折実験も順調に進んでおり、ガスショットモードでのガス吸着時の速度定数の算出まで成功している。さらに、空間分解能を高めた計測手法についても順調に進んでいることから、おおむね当初の計画通り進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度は、予定通り、昨年度開発された装置およびソフトウェアを駆使して、従来の静的な構造解析では得られない情報を引き出すために、多孔性配位錯体のガス吸脱着過程での時間分解測定、X線全散乱計測を実施していく予定である。飽和ガス吸着状態が良く知られているが、動的ガス圧力制御下での構造が調査されていない多孔性配位錯体や、ガス圧力やガス種に対しスピンクロスオーバー転移を示すことが知られる2次元層状ホフマン型錯体の時間分解放射光粉末回折測定を実施する。具体的には、高エネルギーX線を用いてガスに対する吸着等温線に対応したガス圧力を制御しながら、ミリ秒で検出器のシャッターをきることにより、時間分解された放射光粉末回折データを得る。時間分解粉末回折データから、速度論的な解釈、構造の安定性、局所構造の変化等についてさらなる知見を得るため、様々な温度、圧力、時間の条件下で時間分解粉末回折測定を実施する。そして、得られた回折データより、独自に開発したソフトウェアにより解析を行い、吸着相やその他条件で得られた構造との比較により、ガス吸脱着過程における構造変化の機構を明らかにし、本研究目標の達成を図る予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は当該研究がおおむね当初の計画どおり進展したが、実験に関わる消耗品、装置の細微な仕様を変更したため一部繰り越した。次年度の予算は主に、消耗品費(ガス真空ライン、ガラス器具、回折測定用の試料セルなどおよび旅費(研究成果報告,情報収集,研究打ち合わせ)として使用する予定である。
|