研究課題/領域番号 |
18K18315
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
稲村 徳州 九州大学, 芸術工学研究院, 助教 (70796458)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Te Awa Tupua Act / ポスト人間中心のデザイン / 法的人格 / 自然の権利 / ワンガヌイ川 / リードコミュニティ |
研究実績の概要 |
初年度は文献調査、二度の実地調査(8月、3月)を中心に研究を行った。まず、自然の権利に関する世界的な動向、ポスト人間中心のデザインについての基礎的な視点を得た上で、2017年のテ・アワ・トゥプア条例(ワンガヌイ川の法的人格付与に関する条例、 Te Awa Tupua Act)の締結にいたったマオリ族とニュージーランドへの移民との関係性を調査した。
文献調査は、主にワンガヌイ、オークランド、ウェリントンの図書館にて行った。学術と地域コミュニティをつなぐ意味で、本研究では図書館が重要なハブになっていると考えている。いずれの図書館でも、世界のさまざまな地域における先住民の権利、自然の権利に関する文献のコレクションが目立ち、このテーマに関するニュージーランドの意識の高さがうかがえた。なかでもワンガヌイの図書館では、テ・アワ・トゥプア条例に関する書籍、新組織の投票方法などの情報が展示されていた。ここでマオリ文化の専門図書員にインタビューを行ったところ、地元のマオリ社会で強いネットワークを持つことが判明した。新しい組織についての詳細情報を得ることができた。また、ニュージーランドの国立博物館テパパの展示視察を通して、マオリ族と移民の歴史、自然史、農林水産業の移り変わりのナラティブを抽出した。フィールドワークではワンガヌイ川の上流の霊峰トンガリロから河口までの流域を調査し、複数箇所で聞き取り調査を行った。重要なリードコミュニティとして、ワンガヌイのマオリ部族、コロニアル時代の汽船などを用いた観光業、サイクリング或いはカヌークラブなどを特定し、インタビューを行った。政策への影響などを理解するため環境保全省への聞き取りも行った。同省も図書館と同様にマオリコミュニティで活動する職員がおり、この多重の関係性が重要だと考える。
前述の研究成果をポスト人間中心のデザインの切り口から成果の発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献調査、実地調査は概ね順調だと考える。調査の糸口となる具体的なコミュニティ、主要な行政やマオリ族コミュニティとのつながりを作ることができたため、申請の時点で新たなフィールドに入ることに関する不確定要素も取り除けたと言える。リードコミュニティに関しては、当初特定のものに絞った現時点では複数の関係性を考えることにメリットがあるため、絞り込まず分析をおこなっている。インフォグラフィック化することに関しては、現状は草案状態であり、引き続きの実地調査から内容を充実させる。研究成果の公開に関しては、概要でのべた以外でもサイエンスカフェでも発表をおこなっている。研究成果の公開についてはPDF化しネット上に公開することは今後の課題となっているが、こちらは関連組織との同意を得た上で行う。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果を踏まえ、文献調査を継続して行う、また特定した川のリードコミュニティの質的調査、マオリコミュニティのインタビュー、インフォグラフィック化を進める。これらから得た知見を国際学会等発表することを目標に執筆し、国内のミズベリングコミュニティなど、適切な研究成果の発表をおこなう。また授業への応用も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
インタビューなどの調査協力への謝金を見積もっていたが初年度は必要がなく、次年度使用額が生じた。次年度の実地調査の渡航費、学会への参加費に支出する予定がある。
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