研究課題
本研究は、弥生時代開始期(早期・前期)の土器(遠賀川式土器)データの集成をおこなうとともに、進化生物学の形態解析の手法である幾何学的形態測定学をもちいて、土器形態の時空間変異を可視化した。北部九州を中心に、近畿・東海地方までの完形の土器実測図データを集成した。解析の結果、隣接地域では、土器形態が類似する傾向がみられた。また、例えば、北部九州の在来の突帯文土器と、同地域の遠賀川式土器の形態が相対的にではあるが、形態の特徴量として類似している傾向もみられた。同時に、いくつかの文化伝達バイアスを仮定したモデルを使い、どのような文化伝達過程が妥当かを推定した。推定の過程で、欠損値があることや、時間的に集積するという考古学データの性質を検討するために、新しい文化進化の数理モデルを構築した。こうした数理モデルを用いて、使用している統計解析が、意図した効果を適切に検出できるかどうかの検討もおこなった。加えて、こうしたデータをデータベースとして公開するとともに、幾何学的形態測定学の一手法である楕円フーリエ解析をブラウザ上で実行できるようなシステムを構築した。また、こうした成果を含む、文化進化研究の書籍として、『文化進化の数理』を出版した。本研究の目的のひとつである、文化の定量的な解析手法の普及のための一助となる。一方で、現在の研究では、土器の二次元データを対象にしているため、得られているデータにバイアスが含まれている可能性がある。加えて、土器の多様性の検討しかおこなっていない。今後、人骨の時空間変異と重ね合わせることで、縄文時代から弥生時代への移行がどのように起こったのかについて、より詳細な知見を得ることができる。
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Quaternary International
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10.1016/j.quaint.2021.03.022