研究課題
本研究の目的は、同種個体間の社会的絆(親しさ)形成の適応的意義が明らかで、ヒトとも長く共に暮らしてきた伴侶動物でもあるウマを対象に、社会的絆形成を促す心理・生理要因を探ることである。本年度は、同種他個体・ヒトとの社会的絆形成を促す要因に関する研究を3つ実施した。まず、集団で飼育されているウマを対象に、利他行動と親しさの関連性を実験的に検討した。実験前にスキャンサンプリングによってウマ同士の近接の頻度を記録し、その親しさを測定して、実験時のペアを設定した。自身が先に食べ始めた食物への他個体の接近を許すかを調べたところ、ウマは親しい個体に対して食物をより共有する傾向を示した。以上の結果から、ウマの利他行動と社会的絆形成が、因果関係は明らかでないものの、関連していることが示唆された。次に、年齢が近いウマ同士ほど社会的絆を築きやすいウマを対象に、年齢が異なる未知の同種他個体の顔写真を呈示することで、相互作用なしに同齢個体に対する視覚的選好が示されるかを実験的に検討した。実験では、同齢・幼齢・老齢の未知個体の顔写真を1枚ずつ呈示し、ウマの反応を測定したが、それらの写真に対する注視・接近・接触行動に差は見られなかった。以上の結果から、ウマでは、他個体との相互作用なしに、少なくともその顔写真から得られる視覚情報のみに基づく事前の類似性選好は生じない可能性が示唆された。加えて、親しいウマとヒトの間での歩行同期について実験的に検討した。ヒトの歩行リズムをヒトの単独歩行時と同じリズムに統制した歩行統制条件と、ヒトの歩行リズムを統制せず自由とした通常歩行条件を設定し、ウマとヒトの歩行を測定した。その結果、歩行統制条件でのみ、ウマとヒトの間での歩行同期が確認できた。しかし、その状況下に限定して歩行同期が見られる理由については、さらなる分析・実験に基づいて解釈する必要があると考えている。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター静内研究牧場の協力を得て、ウマ同士の社会的絆形成を促す要因に関する研究を1つ実施した。また、すずらん乗馬クラブの協力を得て、ウマ同士とウマとヒトとの・ヒトとの社会的絆形成を促す要因に関する研究を2つ実施することができた。またそれらの研究については、研究を実施した学生とともに論文執筆を進めているところである。よって、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
ウマの社会的絆形成を促す要因に関する研究は、来年度以降も、引き続き、上記の牧場や北海道大学馬術部などの研究協力施設の協力を得て、計画通りに研究を進めることができる見込みである。よって、来年度も、研究のスムーズな遂行が期待できると考えている。
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