研究課題
本研究の目的は、同種個体間の社会的絆形成の適応的意義が明らかで、ヒトとも長く共に暮らしてきた伴侶動物でもあるウマを対象に、社会的絆形成を促す心理・生理要因を探ることである。本年度も、昨年度に引き続き、昼夜集団放牧されているウマの母子を対象に、個体追跡法を用いて、同種個体間の社会的絆形成の基盤となるウマの母子間コミュニケーションに関する研究を実施した。ウマの母子の音声に着目し、発声文脈(発声状況と第1発声の音声の種類の関連)と発声機能(第1発声や最終発声の音声の種類・発声回数とその後の親和的行動の関連)を調べたところ、文脈の検討では、子ウマよりも母ウマの方が母子が離れてからの経過時間や子ウマの週齢といった状況に応じて第1発声の音声の種類を変化させることが明らかになった。一方、子ウマは、母ウマの第1発声の音声の種類に応じて返答するかどうかを変化させたことから、母ウマの第1発声の音声には何らかの情報が符号化されており、その情報の違いに応じて自身が発声するか否かを判断している可能性があることが示唆された。機能の検討では、第1発声と最終発声の音声の種類は、母子の再会までにかかる時間や再会後の授乳の生起確率には影響しなかったが、再会から授乳までの時間には影響し、母子の第1発声や最終発声がWhinnyであった場合にはNickerであった場合よりも再会から授乳までの時間が長くなる傾向が見られた。また、母子両方の発声回数が多くなるほど再会後の授乳の生起確率が低下するのに加え、子ウマの発声回数が多くなるほど再会から授乳までの時間が長くなった。これらの結果は、NickerよりもWhinnyを発声する方が、また繰り返し発声する方が、体力を消耗してしまうため、授乳に成功するまでにより時間を要することを示唆している可能性がある。今後は音響解析を進め、ウマの母子の音声に符号化された情報の解明をめざす。
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