研究期間の大部分で新型コロナウィルス感染症の流行により,実験室で同時に複数名を招いての実験を行うことが難しかったため,最終的にブラウザベースのオンライン実験を利用する方法に変更した。令和5年度も,令和3年度に開発したオンライン実験で行為主体感を測定する方法を利用し,自分以外の他者の存在が行為主体感に与える影響を検討した。 課題とは無関連な妨害刺激として人物の顔画像を出す条件と出さない条件で,さまざまな時間の遅延後に提示された刺激に対して,行為主体感を7件法で評定することを求めた。その結果,妨害刺激の有無の主効果はみられなかったものの,妨害刺激の有無と遅延時間の交互作用が認められた。詳細な分析を行ったところ,自分の行為から結果(刺激の提示)が生じるまでの遅延時間が短い時や長い時には,他者の存在は行為主体感に影響を与えなかったが,遅延時間が中程度の時には,他者の存在が行為主体感を低下させた。つまり,遅延時間が短いために結果が自分に明確に帰属できる時や,遅延時間が長いために結果が明確に自分に帰属できない時には,他者の存在は行為主体感に影響を与えないが,遅延時間が中程度で自分への行為の帰属が曖昧な時には,行為主体感の判断に他者の存在が利用されることが示された。また,妨害刺激としての他者が行為主体感を低下させたことから,他者と共存する状況で行為主体感を低下させないためには,他者と協調的な関係を維持する必要性が示唆された。加えて,研究期間全体として,他者の影響を含め,オンライン環境において行為主体感を適切に測定する実験手法を開発することができた。
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