本研究では飼育下・野生下のウマを対象とし、ヒト及び同種他個体との関わりを個体から集団までの多階層的視点で分析し、ウマの他者理解能力や同調特性を検証してきた。 飼育下環境では、国内外の施設で認知実験を行った。最終年度までの研究では、ヒトの注意状態に基づく知識の有無を識別してそれに応じて行動を調整できること、さらにヒトの指差しを社会的手がかりとして参照でき、その能力に個体の注意力が関連することが明らかになった。成果は全て国際学術誌に掲載された。最終年度には、フランスの研究者らとの共同実験から、ヒトの性別や年齢を視覚・聴覚的に識別できることが明らかになった。成果は国際学術誌に掲載された。またJRA馬事公苑において、オキシトシンの投与がウマ-ヒト関係に与える影響を検証してきた。これまでにオキシトシンの経鼻投与方法を確立し、血中オキシトシン濃度には個体差が大きいことが分かってきた。 野生下環境では、ポルトガル・アルガ山にて国内外の共同研究者らと、ドローン技術を駆使した行動観察や採取糞からの血縁度・ホルモン分析を行った。最終年度までの研究では、群内個体間で行動を同調させて群れがまとまる機構、採食中の配置の規則性、関係が長期的な個体の存在と群れの安定との関連などが明らかになった。さらにウマが重層社会を形成し、群内・間で活動状態が同期することが明らかになった。成果は全て国際学術誌に掲載された。最終年度には、個体数変動を分析し、人為的攪乱と捕食率上昇が個体数激減に関連することが分かった。成果は国際学術誌に掲載された。また上空写真から個体の配置を分析し、群れのまとまりには近接する群れとの距離が影響することが明らかになった。成果は国際学術誌に論文投稿中である。さらに群れ内・外の個体間の血縁度と社会関係の関連を分析し、血縁度と社会関係には関連がないことが明らかになった。成果は、論文投稿準備中である。
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