研究実績の概要 |
アリの歩行特性についての実験的研究を行った. 1つ目はラーニング・ウォーク, すなわち, 新たなエサ場の知識を獲得する際の歩行について検証した.場所の知識を獲得する行為は, 将来使うかもしれない情報を覚えようとするという点において, 単純な予測とは異なる意味合いを持つ. そのような状況下における生物の振る舞いの定量的解析は, その行為の意義を明らかにできるため非常に重要であると考えられる. クロヤマアリのワーカーに対して, 馴染みのない環境下でエサを発見させ, 場所を覚えるというタスクを与えた. 視覚的目印をエサ場近傍に設置した場合と, そのような支配的手がかりが排除された場合とでは, ワーカーの示す歩行に明らかな違いがみられ,前者では歩幅の増幅がピンクノイズを示すことが分かった. 以上の結果から, 支配的目印が提示されている場合では, 長い歩幅と短い歩幅がある程度不規則に出現し, 様々な距離・角度からスナップショットを記憶している可能性を示唆している. ワーカーにとって, エサ場の獲得は, 近い将来使うかもしれないという曖昧な情報の獲得を意味する. そのような状況下で, スケールフリー的性質を示す振る舞いは, 不確定環境下における生物現象の特徴的性質を捉えていると考えられる. また, 2つ目の実験として, アリの長期的歩行特性の解明を, 小型昆虫のトラッキング装置を用いて行った. おなじくクロヤマアリを用いた実験によって, 自己回避・自己誘引運動を繰り返すという特徴的振る舞いが得られた.探索者が歩んできた方向性の曖昧さに基づく意思決定モデルを構築し, 現象的な実験結果と, 上記のシミュレーションを用いたモデルによる比較を実施することで,どのようなプロセスによって, そのような性質が出現するのかについて引き続き検証する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ラーニング・ウォークに関する研究結果はすでに, 国内学会で発表を行い, さらに国際学術雑誌であるjournal of comparative physiology Aに採択され掲載済みである. 両査読者からも高い評価を得ることができた. 歩行トラッキングに関しても順調にデータを増やしていくことができているので, 計画以上に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
歩行トラッキングに関しては, データ数をさらに増やしていく必要がある. また, シミュレーションモデルとの比較も行う予定である. さらに, ラーニング・ウォークに関しては, 当初の予定よりも著しく進展したため, より自由度の高い実験系を設計することで, 詳細な振る舞いの解析を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
1つ目のテーマである, ラーニング・ウォークに関する実験の進展が著しかったため, そちらに関する解析等に時間を割いた. そのため, 予定していた備品購入や海外での発表を実行することができず, 予算の一部を次年度分に繰り越すこととなった.
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