研究実績の概要 |
本年度は小型昆虫のトラッキング装置を用いて, クロヤマアリの歩行解析を引き続き行った. 前年度から自己誘引・自己回避を繰り返すという特徴的歩行パターンについての可能性が示唆されていたが, 個体によって, 誘引・忌避のウェイトが様々であることが分かった. この現象を同一のパラメータで再現するため, 履歴の連続性・不連続性に着目したエージェントベースモデルを構築し, 実験結果との比較を行った. 提案モデルには, 直近の通過したサイトの位置に関する分散をもとに, 特定の方向を避けるという挙動を導入し, 結果として歩行データに類似する結果の算出に成功した. 以上の結果は, SWARM 2019にて発表を行った. さらに, fluctuation functionの解析を実行し, 見かけ上大きく歩行パターンや拡散的性質に違いがみられる場合でも, ピンクノイズ(1/fゆらぎ)を普遍的に示すことが明らかとなった. そのため探索蟻は, 短いパスと長いパスを適度に混ぜることによって, 特定領域探索と広範囲探索の両立を実現している可能性が示唆される. これら一連の結果は論文として纏められ, 現在投稿中である. 蟻の集団ダイナミクスにおける移動の役割については, 死骸の山の形成過程に関するエージェントシミュレーションを実施した. 他個体の存在の有無をもとに, クラスタの永続性に言及する機構をモデルに取り入れることで, 実験結果をよく再現するシミュレーション結果が得られ, 国際的にも重要な雑誌に掲載済みである. 本年度はさらに, 蟻の視覚刺激に対する三次元的知覚に関する実験も行った. 奥行をどのように処理し, 一つの対象物として認識するのかについては, あまりよく分かっていない.現在までに種々の予備実験を行い, 意思決定における歩行特性含め, 実験・解析を引き続き行っていく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
歩行トラッキングに関する研究成果は,すでに国際会議で発表済みである. さらに, ゆらぎの出現に関する成果も論文にまとめ, 投稿中である. また, トラッキング装置の特性を用いて, 物体の認識や3次元知覚に関する実験へも拡張することができたため, 当初の予定よりも進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
物体の認識・奥行知覚に関する実験に関しては, 個体数を増やす形で引き続き実験を継続していく. また, これらは通常のフラットな空間上での実験だけでなく, トラッキング装置なども用いることで,蟻の歩行による移動と風景の移動にミスマッチを生じさせることができる. 自身の移動に対して, 適切に移動しない物体をどのように認識し扱うのかについて検証することで, 空間把握における行動主体者と対象物との相対的関係性についても言及できる.
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