研究実績の概要 |
ヒトの小腸は長さ約6メートルの管であり,食物の消化と吸収が主な役割である.胃内で胃液と混合された食物は,小腸内で胆汁や膵液と混合されグルコース等の栄養素に分解されたのち,小腸壁を通じて体内に吸収される.これらの過程に消化管壁の運動が大きな役割を担っているが,実験的にこれらを計測するのは困難であり,その背景にある力学はほとんど明らかになっていない.これまでの研究において,胃の実形状データおよび数値流体力学(CFD)に基づく胃内食物輸送のCFDシミュレータを開発し,ヒトの胃における消化・吸収過程を流体力学に基づき,初めて明らかにした.本研究では「小腸内のどこで,どのように栄養素が吸収されるのか?」を数値シミュレーションによって明らかにする. 該当年度は,消化管壁と内容物撹拌の詳細な関係を解明するために,従来,剛体壁として取り扱っていた小腸壁を弾性体として扱い,流体ー構造連成計算を用いたシミュレータの構築を行った.しかしながら,求められた力は到底生体内において発揮されているものとは考えにくい大きさのものであった.これは,小腸壁は壁面全体の表面積がほとんど変化せずにぜん動運動が発生している可能性がある. 今後は方針を変え,小腸内の固体成分の運動に着目する.近年,ぜん動運動や分節運動を模擬したポンプの研究が盛んに行われている.このポンプは,輸送と撹拌を同時に行え,高粘性流体にも適応可能であるという利点がある.しかしながら,ぜん動・分節運動時と固体の運動の関係は明らかになっていない.そこで,今後は,個別要素法と有限要素法をカップリングさせた新たなシミュレータを構築し,これらの関係を解明する.
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