本研究の目的は、骨格筋細胞と腱細胞からなる3次元腱付き骨格筋組織を構築し、筋腱接合部の構造を詳細に観察するとともに、腱組織の有無が筋収縮に与える影響を解析することである。 本年度は昨年度に引き続き、ヒト骨格筋細胞株と市販の初代ヒト腱細胞をそれぞれ異なるハイドロゲルに包埋して、両細胞種を含むひも状組織を構築した。このとき、骨格筋細胞分化用培地を用いる場合と、骨格筋細胞分化用培地と腱細胞培地を1:1で用いる場合を比較すると、骨格筋細胞分化用培地では筋細胞のサルコメア形成と収縮運動を認めたが、1:1培地ではどちらも認められず、筋分化が不十分であった。どちらの培養においても、腱細胞とみられる抗コラーゲンタイプI抗体陽性で単核の細胞が筋細胞の近傍に存在したが、生体特徴的な構造は再現されなかった。以上のことから、筋細胞と腱細胞を3次元的に配置し、筋収縮可能な構造を構築することは可能であったが、生体に近い構造を再現するには更なる培養条件の検討が必要であることが示唆された。 また、線維芽細胞の一種である腱細胞を3次元的に培養した状態で骨格筋細胞と共培養した場合に、骨格筋細胞の増殖や分化がどのように影響を受けるかを調べるために、線維芽細胞から構築した3次元組織から放出される因子が骨格筋細胞に与える影響を解析可能な実験系を確立した。その結果、線維芽細胞は筋細胞と非接触の状態で、分泌因子を介して筋細胞の増殖を促進することを見出し、Sci Rep誌に報告した。この結果は、筋細胞と腱細胞の3次元共培養において、両細胞の相互作用を加味したうえで、培養条件を決定する必要があることを示している。
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