研究課題/領域番号 |
18K18360
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長田 翔伍 東京大学, 生産技術研究所, 特任研究員 (40751441)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 神経幹細胞 / 血管性ニッチ / シェアストレス / マイクロ流体デバイス / 臓器チップ |
研究実績の概要 |
本培養系の構築には、ヒト血管内皮細胞と神経幹細胞の共培養条件を最適化する必要がある。各細胞において、その細胞特性が維持される培養条件を探索するため、神経細胞培養条件をベースに、血管内皮細胞(ECs)および神経幹細胞(NSCs)の機能維持に効果的である細胞成長因子や低分子化合物の組み合わせを検討し、その共培養条件の確立に成功した。さらに、その培養条件が、細胞外マトリクス(ECM)成分から成る膜を有するカルチャーインサートにおいても、三次元共培養に応用可能であることを確認した。 本研究では、ヒト脳内神経幹細胞ニッチ(血管性ニッチ)の再構築を目的としているため、血管内皮細胞にはヒト初代脳血管内皮細胞(BECs)を、神経幹細胞には神経発生後期に相当するヒトiPS細胞由来神経幹細胞(iPSC-dNSCs)を用いた。また、灌流デバイス内での共培養には、ビトリ化コラーゲン膜を有するカルチャーインサートを用いた。カルチャーインサート内共培養において、BECsではCD31やVECADなどが発現すること、iPSC-dNSCsでは神経幹/前駆細胞マーカーであるNESTINなどが発現し、また神経細胞マーカーであるTUJ-1も一部の細胞で発現することが確認できた。これらカルチャーインサートを灌流培養デバイスに設置し、流れ刺激(シェアストレス)を負荷することで、各細胞特性がどのように変化するかを検討中である。灌流培養デバイスはPDMSから成るマイクロ流路を有し、BECs側(カルチャーインサート外側面)にのみシェアストレスの負荷が可能をなる構造になっており、流路の出入り口にチューブを繋ぎペリスタティックポンプに接続することで、数日に渡って灌流培養が可能となる。これまでに、シェアストレス負荷下においても、各種細胞特性マーカーが発現し、培養条件次第で細胞形態(配向性など)の変化が誘導可能であることを見出している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた脳血管内皮細胞(BECs)とヒトiPS細胞由来神経幹細胞(iPSC-dNSCs)の至適共培養条件の確定、細胞外マトリクスから成りBECsとiPSC-dNSCsの共培養が可能なカルチャーインサートの選定、カルチャーインサートが設置でき灌流培養可能なマイクロ流体デバイスを用いた培養系の構築が達成されており、順調に研究が進展している。 今回、他の多くの研究で使用されているヒト臍帯血管内皮細胞とは異なる特性を有するヒト初代脳血管内皮細胞を用いており、共培養条件を探索・確定したことは、今後の血管-神経相互関係を理解する上で大きな成果になると考えられる。 また、これまで人工膜(PET膜など)から成るカルチャーインサートを用いた共培養系は多く利用されてきたが、本研究ではより生体内環境を模擬可能なECM膜からなるカルチャーインサートを用いることに成功している。 灌流培養デバイスでは、長期の灌流培養ではチューブ接続部からの液漏れが起こる問題や、ペリスティックポンプによるシリコンチューブ内摩耗に伴うシリコン粒子の培地への混入などの問題が生じたが、チューブの構造や材質の改良により解決することができている。このようなマイクロ流体デバイスを用いた灌流培養技術の開発は近年盛んに進められているが、本研究で得られた知見や問題解決技術は、それら他の培養技術へも応用可能であり、広く貢献できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに確立してきた共培養・灌流培養系を用いて、脳血管内皮細胞(BECs)へのシェアストレス負荷の有無による神経幹細胞(iPSC-dNSCs)の幹細胞性(stemness)および分化機構への影響を評価していく。神経発生に関連する既報のシグナル経路の評価や、オミクス解析による新規機構の探索により、シェアストレスにより活性化されるBECsから分泌された液性因子により、iPSC-dNSCsがどのような影響を受けるのかを解明することを目指す。また、血管-神経相互関係理解のために、本培養系におけるBECsの細胞特性変化の評価も進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
灌流培養デバイスの送液機構をシンプルな構成にすることで、複雑なポンプシステムを構築する必要がなくなり、簡便なペリスティックポンプとPDMSから成るマイクロ流体デバイスを用いることで実現したことで、培養系構築に予定していた物品費および開発費を抑えることができた。さらに、細胞のサンプリング、および評価にも適したデバイス形状となったため、共培養および灌流培養時の細胞特性評価が効率的に進展し、研究費を抑えることが可能となったため、次年度使用額が発生した。 当該助成金は、次年度における細胞特性解析の効率化を図るためのデバイスの改良や、オミクス解析拡充へ使用する予定である。
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