最終年度においては、ヒトiPS細胞由来神経幹細胞(NSCs)と血管内皮細胞を導入したビトリ化コラーゲン膜カルチャーインサートをマイクロデバイスに設置し、血流を模した流れ刺激負荷下におけるNSC特性解析を行った。本実験では、血管内皮細胞としては、流れ刺激応答性が良く研究されているヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)を用いた。流れ刺激の有無、およびせん断応力の強弱により、NSCsとHUVECsのタンパク質、mRNA発現を評価した。各流れ刺激条件下において、HUVECsはCD31やVECADなどECマーカーが発現すること、NSCsでは神経幹/前駆細胞マーカーであるNESTINが発現し、また神経分化マーカーであるTUJ-1も一部の細胞で発現することが確認できた。さらに、定量的RT-PCRにより各細胞集団における遺伝子発現解析を行った。HUVECsでは、流れ刺激の有無および強度に依存して、CYP1B1などの代謝関連遺伝子の発現が上昇することが明らかとなった。さらにNSCsはそれに伴い、HES5やID1などのNOTCH経路下流遺伝子の発現が上昇し、グリアマーカーであるGFAPの発現が低下することが明らかとなった。これは、流れ刺激はHUVECsの活性変化を介して、近接するNSCsの幹細胞特性に影響を与えることを示唆しており、NSCニッチにおける流れ刺激の役割およびNSC制御機構の一端を明らかにすることができた。 本研究では、マイクロ加工技術を用いることで、生体模倣性の高いNSCニッチモデルを構築し、ECs、NSCs、流れ刺激の相互関係の解析に有用であることを示すことができた。これは、脳の恒常性維持や発生機構の解明のみならず、神経再生や神経疾患の病態機構の解明に寄与することが期待されている。また、神経再生誘導を目的とした創薬分野へも貢献できるものと期待される。
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