研究課題/領域番号 |
18K18362
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
榛葉 健太 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (80792655)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大脳皮質 / マイクロ加工 / iPS細胞 |
研究実績の概要 |
大脳皮質が関連する高次機能や疾患の理解に向けて,3次元凝集塊を用いた培養モデルが考案され,盛んに研究が行われている.しかし,3次元構造が原因となり,内部の細胞死が起こることや大脳皮質構造が構築される場所がランダムという課題があった.本研究では,大脳皮質構造を2次元平面上に形成させることで,従来の課題を解決することを目指す.計画初年度にあたる本年度は,基盤となる技術を確立することに注力した.微細加工技術により微小な流路構造を形成することで,細胞集団のうち対象とした部位のみに薬剤を作用させるためのデバイスを作製した.作製した構造の有用性を確認するために,基板平面上に多数の電極を配置した微小電極アレイと組み合わせ,神経細胞の微小構造に対する薬理刺激実験を行った.結果,対象とした微小領域への薬理刺激を実現できることが確認できた.したがって,次年度には形成途中の大脳皮質層構造に対して任意の位置に薬理操作をできる可能性が示された.加えて,用いる細胞の種類および培養方法についても検討した.大脳皮質細胞をヒトiPS細胞から分化誘導するにあたり,状態が良い未分化細胞を得ることが重要であり,分化誘導手法についても適切な手法を採用する必要がある.そこで,分化誘導方法については,平面上で行う手法および凝集塊を形成する手法を用いて分化誘導を行い,形成された神経細胞の機能を評価した.検討により,フィーダーフリー条件で未分化状態を維持し,凝集塊を形成させることで分化誘導する手法が適することが示された.以上のように基盤となる技術が確立されたことで,次年度に大脳皮質モデル化に向けた有用な知見が得られることが期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大脳皮質構造を二次元平面上にモデル化することが本研究の目標である.目標達成のためには,分化誘導する細胞,構造をガイドするための微小構造,および機能評価に用いるための計測手法が重要となる.本年度までに,分化誘導手法については,GMEMおよびKSRを用いた細胞凝集塊の形成方法を採用でき,微小構造についてはフォトリソグラフィ・ソフトリソグラフィ技術を用いることで作製できることが確認できた.分化誘導細胞については,マウスiPS細胞を用いて培養方法の試験を行った.結果,大脳皮質の興奮性・抑制性神経細胞を分化誘導でき,形成した細胞が機能的なネットワークを形成するまで成熟することが示された.また,形成されたネットワークは興奮性と抑制性のバランスに依存した活動リズムを示した.微小構造については,神経細胞の軸索を対象とした薬理刺激実験により,数百マイクロメートルの範囲に選択的に薬理刺激をできることが示された.また,計測技術については,微小電極アレイによる計測が適すると考えており,次年度に上記技術と組み合わせるべく検討を行う予定である.以上から,次年度では,細胞の自己組織化による大脳皮質構造を二次元平面上に形成させる工夫をすることで,目標達成に向けて有用な知見が得られることが期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
従来モデルでは3次元細胞凝集塊の内部のランダムな位置に大脳皮質構造が形成されていたが,本研究では二次元平面上の任意の位置に大脳皮質構造を形成し,形成された神経ネットワークの機能評価を行うことを目指す.以上の立場から,次年度は以下の2つの課題を設定する.両者について検討し実験を遂行し,取りまとめを行う. 1.凝集塊の形状制御による扁平凝集塊の作製 微細構造により,凝集塊形成時の高さを制限するデバイスを作製する.デバイス上部には初年度に作製した流路構造を形成し,任意の位置に選択的な薬理刺激が可能な構造とする.デバイス上部は,高い培養液の交換率を達成するために透過性の高い膜を用いる.以上の構造により,凝集塊の高さを200マイクロメートル程度に制御し,凝集塊の辺縁に基板と並行方向に層構造が形成される細胞凝集塊を作製する.薬理刺激用の構造から,皮質形成を調節する効果がある因子reelinを作用させ,形成される構造と作用部位の関係を評価する. 2.形成された神経ネットワークの機能評価 項目1で開発した手法により,微小電極アレイ上に層構造を形成させる.3ヶ月程度の活動をモニタリングし,自発活動がネットワーク全体で同期するまでの挙動を評価する.さらに,計測した時系列データから,層構造に対して平行・垂直方向の情報の伝達量を計算し,層構造による情報処理機能に関する知見を得ることを目指す.
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