本研究では,マイクロ加工技術を駆使し2次元平面上で大脳皮質モデルを構築することを目的とした.本研究における大脳皮質様の構造とは,神経幹細胞より分化した神経細胞が一方向に移動し,深層・浅層神経細胞がReelinにより異なる位置で移動を終えることで層構造を形成した状態と考えた.初年度には培養条件の最適化とマイクロデバイスの構築を行った.本年度は培養条件を決定したヒトiPS細胞を用いて,大脳皮質神経細胞へと分化を誘導し,上記の構造が形成されるかを検討した. 大脳皮質の層構造を形成するための方法の開発に向け,二次元培養および三次元培養の条件で分化誘導を行った.当初は二次元平面上に細胞を培養する方法を用い,ヒトiPS細胞より分化誘導した神経幹細胞や神経上皮細胞を様々なコーティング条件のもと培養した.いずれの手法においても神経細胞への分化は確認できたが,大脳皮質様の構造は形成されなかった.そこで,現在の主流となっている3次元培養の手法を模して神経上皮細胞をマトリゲルに包埋して培養したところ,初期の神経管様の構造が形成された.しかし,そこから分化は進まず,2次元構造では大脳皮質様の構造の形成が難しいことが分かった. そこで,途中まで3次元培養を行い,適切なタイミングで凝集塊を細切する方法を考案し,試した.神経上皮細胞の増殖が終わるタイミングである分化誘導2週間目に凝集塊を細切し,マトリゲルに包埋して培養した.結果,従来の3次元構造と比較すると観察が容易な厚さの組織が構築された.今後培養条件の最適化ができれば,オルガノイドの課題であった凝集塊のサイズが大きいことによる内部の細胞死や低い観察性を解決できる可能性がある.本成果は,今後大脳皮質の形成過程の観察や中枢神経系の疾患の機序解明に向けた基盤技術となりえる点で重要である.
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