研究課題/領域番号 |
18K18369
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
鵜殿 美弥子 九州大学, 生体防御医学研究所, 学術研究員 (30815543)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | iHep細胞 / ダイレクトリプログラミング / T細胞 / 末梢血 |
研究実績の概要 |
当研究室ではマウス皮膚由来線維芽細胞にHnf4aとFoxa(Foxa1,2,3いずれかひとつ)という2種類の遺伝子を導入することで、線維芽細胞を肝細胞の性質を持った細胞(induced hepatocyte-like cells:iHep細胞)へと変化させることに成功している。このように転写因子を導入することで、分化した細胞を幹細胞を経ずに直接他の分化した細胞へと誘導させる技術はダイレクトリプログラミングと呼ばれ、iPS細胞と比べて短時間に作製できる、再現性が高い、幹細胞を経由しないため未分化な細胞が残るリスクが低い等の利点を有する。 生体由来の肝細胞は体外で培養すると、肝細胞特有の機能を失い長期培養を維持することができず、in vitro薬剤スクリーニングや細胞移植に向けた研究の障害となっていた。マウスiHep細胞は、肝細胞の形態的特徴や遺伝子・タンパク質発現を示し、それらの機能を維持したまま培養下での増殖や維持、凍結保存が可能である。また肝機能不全で死に至る高チロシン血症モデルマウスにこのiHep細胞を移植すると、肝細胞として障害を受けた肝臓組織を機能的に再構築し、マウスの致死率を大幅に減少させた。わずか2つの遺伝子が細胞の分化状態を変化させ、全く異なる機能を持った細胞になるというこの現象は、肝再生医療開発において革新的な基盤技術となりうる。 本研究では、このダイレクトリプログラミングによって誘導したiHep細胞を肝再生医療に応用するため、低侵襲で採取できる末梢の血球細胞からヒトiHep細胞(H-iHep細胞)を作製することを目的とした。この研究が成功し、H-iHep細胞を簡便に作製することが可能になれば、肝疾患患者に対する細胞移植治療への発展が期待できるだけでなく、患者に応じた薬物応答・薬物代謝能を予測でき、創薬やオーダーメイド医療に発展することが可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で作製しているヒトiHep細胞は、今まで報告がない初のヒト血球由来であるため、最初の培養法や機能解析について細かな条件検討が必要とされた。細胞培養法に関しては、T細胞のより良好な活性化方法・iHep細胞への転換を促進するようなサイトカインの添加・さらにはiHep細胞を機能的に成熟させる方法を検討した。成熟化させる方法の一つとして、細胞を平面でなく3次元で培養する凝集塊の作製を行った。この3次元培養方法は、生体内の環境を模倣しており、凝集塊にしたiHep細胞はより肝細胞に近い機能を有することが明らかとなった。 また本研究は、源細胞がヒト由来であることから個体差が大きく、最適な条件を検証するのに時間と費用を要した。しかしこのことは、均一の機能を持つiHep細胞の安定的な供給という将来の臨床応用を考える上で重要な問題である。この問題を、より簡便な方法で解決するために、GFP強度を指標に導入因子の発現強度をフローサイトメトリーによるソーティングでそろえるという方法を考案した。次年度は、この方法によるiHep細胞の機能の標準化を目標として研究を行なっていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、1年間検討してきたiHep細胞作製方法をもとに、さらに詳細な機能解析および再現性の確認を行っていく予定である。機能解析に関しては、肝臓特有の機能として薬物代謝能や毒性試験等を考えており、これらのアッセイを再現よく行うことができるかどうかを検証する。また2次元培養法と3次元培養法について比較を行い、それぞれのiHep細胞の性質を調べるとともに、より高品質で安定した作製方法の確立を目指す。 将来の臨床応用への安全性を考え、無血清培養によるiHep細胞作製を検討する。 さらに作製した細胞の肝細胞としての機能を確認する目的で、高チロシン血症モデルマウスを用いたiHep細胞移植を行う。移植する細胞はヒト由来であるため、免疫不全マウスを使う必要がある。現時点で、当研究室で両方のマウスを飼育しているので、これらを交配し高チロシン血症モデル免疫不全マウスを作製する。作製したiHep細胞をこれらマウスに移植し、生着率や生存率を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で作製しているiHep細胞は、今まで報告がない初のヒト血球由来であるため、最初の培養法や機能解析について細かな条件検討が必要とされた。またヒト由来であることから個体差が大きく、最適な条件を検証するのに時間と費用を要した。しかし1年間、条件検討を綿密に行った結果、iHep細胞誘導に最適といえる培養条件を決めることが出来た。次年度は、この条件下で作製を行い再現性の確認と、iHep細胞の詳細な機能解析を行っていく予定である。機能解析に関しては、肝臓特有の機能として薬物代謝能や毒性試験等を考えており、これらに必要な試薬を購入する予定である。また、作製した細胞の機能を確認する目的で、免疫不全マウスに移植する予定であり、これらにかかる費用にも使用したいと考えている。
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