研究課題
本研究では、ナノ粒子内で特異的に誘起される分解反応を新原理として提唱し、ナノ粒子に対して細胞内環境応答的な崩壊性を付与することで、核酸を細胞内へ送達する技術の開発を進めてきた。搭載する核酸としては、DNAと比較して変異原性などのリスクを持たないmRNAに着目し、世界最高水準の効率と安全性を兼ね備えたmRNAベクターの開発を目指す。基盤技術として独自の環境応答性脂質であるSS-cleavable Proton-Activated Lipid-like Material(ssPalm)を用い、本分子の設計に分解性リンカーを導入することで新規素材の開発を目指した。平成30年度の当初計画へ『ベクター開発』、『遺伝子発現活性、免疫原性評価(細胞)』であった。『ベクター開発』については、粒子内ナノ空間という高度に濃縮的な環境でのみ特異的に切断されるリンカー構造(フェニルエステル)を見出し、新規化合物ssPalmO-Phenyl-P4C2(SS-OP)を開発した。SS-OPは非分解性コントロールに比較し優れたmRNA導入効率を示した。さらに、市販のトランスフェクション試薬や既承認核酸医薬品の主成分と比べ有意に高い導入効率を示した。本素材と化学修飾核酸を組み合わせることで、反復投与可能なベクターを開発した。『免疫原性評価』では、細胞にトランスフェクションを行った際の応答を炎症応答やストレス応答を低分子で阻害することで、各パスウェイの寄与を調べた。その結果、炎症に対する広範な抑制作用を示すデキサメタゾンが外来mRNAの導入効率を改善可能であることを明らかとした。
2: おおむね順調に進展している
本年で目標としていた『ベクター開発』、『遺伝子発現活性、免疫原性評価(細胞)』は計画通り完了した。本年で開発した素材は、既存のベクターと比較しても優れた機能を有するため、特許出願(国内/PCT)を行った。また、免疫原性の評価では、1型インターフェロンやストレス応答ではなく、炎症性の応答が外来mRNAの発現に影響する可能性を見出し、論文として報告した。以上より、研究は計画通りに進展していることから、(2)おおむね順調に進展していると判断した。
本年で開発したSS-OPのIn vivo応用をさらに進める。具体的には、研究計画に従い肝臓における炎症性疾患モデルに対する治療効果を検証する。炎症性疾患モデルとしては、劇症肝炎モデルであるガラクトサミン/LPSモデルおよび、FASに対するアゴニスティック抗体(Jo2)を用い、抗アポトーシスタンパク質(Bcl-2)や抑制性サイトカイン(IL-10など)をmRNAの形で導入する。炎症環境時における遺伝子発現を検証しながら、導入されたタンパク質による肝炎治療効果を検証する。肝臓毒性の指標であるAST/ALTの評価を行う。また、遺伝子発現の結果を鑑みて、mRNAの配列最適化や化学修飾の検討を行う。また、潰瘍性大腸炎モデルに対する遺伝子導入についても検討を進める。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
Mol Pharm
巻: 15 ページ: 2060-2067
10.1021/acs.molpharmaceut.7b01084
Biol Pharm Bull
巻: 41 ページ: 1291-1294
10.1248/bpb.b18-00208
Journal of Controlled Release
巻: 279 ページ: 262-270
10.1016/j.jconrel.2018.04.022
Nanomedicine
巻: 14 ページ: 2587-2597
10.1016/j.nano.2018.08.006
Heliyon
巻: 4 ページ: e00959
10.1016/j.heliyon.2018.e00959
巻: 42 ページ: 299-302
10.1248/bpb.b18-00783