研究課題
本研究では、ナノ粒子内で特異的に誘起される分解反応を新原理として提唱し、ナノ粒子に対して細胞内環境応答的な崩壊性を付与することで、核酸を細胞内へ送達する技術の開発を進めてきた。搭載する核酸としては、DNAと比較して変異原性などのリスクを持たないmRNAに着目し、世界最高水準の効率と安全性を兼ね備えたmRNAベクターの開発を目指す。さらに本研究では、炎症性の疾患に対する本技術の応用を目指し研究を進めている。基盤技術として独自の環境応答性脂質であるssPalmを用い、本分子の設計に分解性リンカーを導入することで新規素材の開発を目指した。初年度に開発した素材であるssPalmO-Phenyl-P4C2は、次の特徴を有する:濃縮的な環境でのみ特異的に切断されるリンカー構造(フェニルエステル)を有し非分解際材料や市販の試薬と比較し優れたmRNA導入効率を示した。平成31年度の当初計画は『全身投与型mRNAベクターへの応用』、『炎症性疾患への適用』であった。我々はssPalmO-Phenyl-P4C2を用いた肝臓に対するmRNA送達を行い、化学修飾mRNAと本材料の組み合わせで一か月5回にわたる反復投与が可能であることや、内封核酸の質をが炎症応答を決定する要因であることを見出した。次年度ではmRNAを用いた炎症治療を進める。
1: 当初の計画以上に進展している
平成31年度の当初計画は『全身投与型mRNAベクターへの応用』、『炎症性疾患への適用』であった。我々は初めに、ssPalmO-Phenyl-P4C2を用いた肝臓に対するmRNA送達を行った。当初計画では、ラボスケールのインビトロ転写で合成するmRNAを用いたが、この場合、mRNAの免疫原性により反復投与が出来ないことが明らかとなった。そこで我々は、市販の化学修飾mRNAと本材料の組み合わせ、粒子の免疫原性を軽減することにより、一か月5回にわたる反復投与が可能であることを見出した。今年度の成果は、当初計画である抗炎症目的での利用を大きく前進させるものであったことに加え、外来mRNAに対する生体の応答に関して示唆を与えることから意義深いと考えられる。また我々は、ssPalmの脂質足場を改変することで、免疫原生を逆に高められることを見出した。特にビタミンEを足場に有するssPalmEは核酸と組み合わせた際、DNA、RNAともに顕著なワクチン効果を示した。上記から、本年の研究は当初計画以上に進展している。
本ベクタのーワクチン応用に関しては引き続き検討を進める。本研究の当初目標である炎症性疾患治療については、炎症性大腸炎モデルを用いて研究を進める。本モデルは既に確立済みであるため、候補mRNAをモデルマウスに導入し、体重の減少や大腸の損傷などを指標に、評価を進める。また、大腸や脾臓の細胞集団に与える影響についても解析を進める。現在、インビトロ翻訳反応で合成されるmRNAに関して、その質を向上させる方法が報告されつつある。これらの方法論を利用し、炎症性疾患の治療に適したクオリティのmRNA作成法についても整備を進める。
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Molecular Pharmaceutics
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