研究課題
本研究では、ホウ素中性子捕捉療法に使用される薬物であるボロノフェニルアラニン(BPA)をボロン酸エステルを介して結合することのできる生体適合性高分子を合成し、それによるBPAの機能の向上を試みるとともに、高分子の主鎖構造の物性が細胞内取り込み挙動や体内動態にどのような影響を及ぼすかを調べることを目的とした。まず、最も単純な構造を有するポリビニルアルコール(PVA)を、ポリビニル酢酸のRAFT重合と加水分解により分子量を精密制御しながら合成し、それをBPAと水中で混合することにより、PVA-BPA複合体を形成した。このPVA-BPAの細胞内取り込み挙動をLAT1陽性培養がん細胞を用いて評価したところ、PVA-BPAは従来のfructose-BPA (fructoseは可溶化剤として使用)と比較して有意に高い取り込み量を示した。また、細胞内滞留性についても評価した結果、PVA-BPAはfructose-BPAよりも長期的な滞留性を示した。共焦点レーザー走査型顕微鏡により、細胞内分布を調べたところ、PVA-BPAはエンドソーム・リソソーム内に局在していたことから、PVA-BPAはLAT1介在型エンドサイトーシスにより取り込まれ、細胞内局在を変えることにより、従来のBPAと比較して細胞内滞留性を高めることができたものと考えられる。皮下腫瘍モデルを用いた実験においても、PVA-BPAは従来のBPAと比較して高い腫瘍集積性と長期腫瘍内滞留性を示し、正常組織への集積は腫瘍に対するものより顕著に低かった。この腫瘍に対してBNCTを行うと、PVA-BPAは極めて高い抗腫瘍効果を示した。この高分子-BPAのコンセプトは、BPAとボロン酸エステルを形成することのできる他の高分子でも実現することが可能で、その高分子の主鎖の物性が体内動態に大きく影響することを明らかにした。
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