研究課題/領域番号 |
18K18387
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
中村 奈緒子 芝浦工業大学, システム理工学部, 助教 (70754878)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 歯周靭帯 / 歯根膜 / 脱細胞化 / 靭帯 / インプラント / 細胞外マトリックス |
研究実績の概要 |
現在の歯科治療において、歯科インプラントは欠かせない治療法の一つであるが、歯科インプラント治療はインプラントを歯槽骨に直接埋入して結合させるため、本来の歯と歯周組織が有する歯周靭帯の機能が欠如している。歯周靭帯は骨と歯を繋ぐ靭帯であるが、力学的に歯を支えるだけでなく、多くの血管や神経を含み、歯への栄養供給や噛みごたえの感覚を司る役割、また、細菌感染の予防などの役割も担っている。そのため、インプラント材料と歯槽骨の間に歯周靭帯様の軟組織を再構築し、歯周靭帯の機能を付与させることが期待されている。しかし現状では、歯周靭帯の特徴的な配列を有する構造や、硬いインプラント材料と軟組織の結合の困難さから実現には至っていない。そこで、生体の歯周組織構造を模倣することで、歯周靭帯の機能を有する歯科インプラント治療の実現を目指した。本研究課題では、歯周靭帯を再構築するための材料としてシート状に加工した脱細胞化靭帯を用いた「インプラント/歯周靭帯一体型の人工歯周組織ユニット」の創製を目的とし、脱細胞化靭帯のインプラント材料表面との結合の検討、および脱細胞化靭帯の生体骨との結合の検討を実施する。具体的には、① 歯周靭帯マトリックス様の脱細胞化靭帯組織シートの作製、② インプラント材料表面/歯周靭帯マトリックスの結合のための評価モデルの作製、③-1 in vivo移植実験による脱細胞化靭帯のインプラント材料表面との結合の検討、③-2 in vivo移植実験による脱細胞化靭帯の生体骨との結合の検討の3つの要素技術に関する検討を実施する計画である。2018年度は①、②を実施し、さらに③-1の初期検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①歯周靭帯マトリックス様の脱細胞化靭帯組織シートの作製に関して、靭帯組織を構成するコラーゲン繊維の配向を確認したところ、靭帯の長軸方向にコラーゲン繊維が配向していることがわかった。靭帯組織をコラーゲン線維束の配向と直交する向きにシート状に加工した。靭帯シートを種々の界面活性剤および高静水圧印加による脱細胞化処理方法にて処理した。組織学的評価の結果、コラーゲン繊維の配向性は脱細胞化処理後も維持されていた。また。脱細胞化処理後の一部の条件では細胞核が観察されず、脱細胞化が達成されていることがわかった。以上より、三次元的な細胞外マトリックス構造を有する歯周靭帯様のマトリックスからなるシートを調製できたことが示された。 ②インプラント材料表面/歯周靭帯マトリックスの結合のための評価モデルの作製に関して、歯周靭帯様シートをインプラント材料表面に密着させることで、インプラント材料表面/歯周靭帯マトリックスの結合のための評価モデルを作製した。本年度は、インプラント材料の簡易的なモデルとして、高分子材料のプレートに交互浸漬法にてリン酸カルシウムを沈着させた材料を調製した。脱細胞化靭帯組織シートと表面をリン酸カルシウムコーティングされた材料を合わせることで、評価モデルを作製した。 ③in vivo移植実験による脱細胞化靭帯のインプラント材料表面との結合の検討に関して、作製したモデルを用いて、in vivoにおける細胞の再配置および機能発現により、インプラント材料表面と歯周靭帯マトリックスの結合能について明らかにすることを目指した。本年度は、初期検討として脱細胞化靭帯組織シートの細胞外マトリックス構造の安定性を評価した。移植4週間後に顕著な炎症反応は観察されず、細胞外マトリックスも維持されていることがわかった。 以上より、当初の計画に対しておおむね順調な進捗状況である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は以下の項目に関する検討を実施する。 ③-1 in vivo移植実験による脱細胞化靭帯のインプラント材料表面との結合の検討に関して、ラットへの皮下埋植を行い、脱細胞化歯周靭帯シートとインプラント材料表面の生体内での反応を評価することで、結合に必要な材料の表面特性を明らかにする。各種染色法により、細胞浸潤の浸潤性、配向性、組織再構築能、歯周靭帯に特徴的な神経細胞の再配置や毛細血管網の構築について評価する。また、引張試験により、移植後のインプラント材料表面と脱細胞化歯周靭帯シートとの結合強度を評価する。上記の検討で良好な結果が得られなかった場合は、計画②のインプラント材料表面の処理方法を改良し、材料表面との結合力の向上を図る。また、移植部位を皮下ではなく骨領域に変更する。 ③-2 in vivo移植実験による脱細胞化靭帯の生体骨との結合の検討に関して、ラット大腿骨に欠損を作製し、欠損部への評価モデルの移植を行う。microCTおよび各種染色法により脱細胞化歯周靭帯シートと骨の結合部を観察し、評価モデルの骨への安定的な生着について検討する。良好な結果が得られなかった場合は、脱細胞化歯周靭帯シートの骨接触面側のコラーゲン線維へのカルシウムの複合化や、骨形成因子の添加により改善を図る。 研究協力者として大学4年生1名および修士2年生1名が本研究に参画し、本研究の一部を卒業論文および修士論文のための研究テーマとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していたミクロトーム(約100万円)を、当初予定されていなかった所属する大学の別の予算で購入することが可能となった。そのため、当該助成金の一部を2018年度の本研究課題に係る消耗品の購入に充当した。2018年度に使用しなかった当該助成金は、2019年度の消耗品の購入に充当する予定である。
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