本研究の目的は、「生体適合性を保持したまま生体材料の物性と構造をナノ・マイクロスケールで3次元制御し、生体内環境を再現して細胞機能を引き出す高機能足場を創出する」ことである。これまで培ってきた量子ビーム(高精度に制御した各種放射線)を駆使した高分子材料の改質・微細加工技術を生体材料に応用し、培養基材によって細胞機能を制御しようという分野横断研究を展開する。昨年度までに、量子ビームが誘起する架橋反応により、架橋剤等の薬剤を一切用いずに、生体内における細胞周囲環境の主成分であるコラーゲンをハイドロゲル化する技術を確立した。 本年度は、開発した量子ビーム架橋コラーゲンゲルを基材として用い、一般細胞株を培養して細胞応答を解析した。ゲルの硬さは、量子ビームの照射量などにより、生体内の軟組織と同じ約1~数100 kPa程度に調整した。また、平坦なゲルだけでなく、表面に数マイクロメートルの微細構造を付与したゲルも作製して培養に用いた。上皮細胞(MDCK、イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来)と線維芽細胞(3T3 Swiss albino、マウス胎児由来)を用いた実験では、ゲルの硬さと表面形状によって細胞形態が大きく変化することを確認した。いずれの細胞も硬いゲルほど接着面積が大きくなり、表面形状への応答もより顕著になった。線維芽細胞は、ゲルが柔らかいと内部に積極的に潜り込む様子が見られた。生体内とはかけ離れた硬く平坦なディッシュ上では見ることができない、細胞の多様な機能が発現すると期待され、今後ヒト間葉系幹細胞などを使った研究に発展させていく予定である。
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