研究課題/領域番号 |
18K18392
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
大澤 重仁 東京理科大学, 理学部第一部応用化学科, 助教 (30780663)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 核酸送達 / 点眼剤 / 高分子 / コロイド粒子 / 刺激応答性 |
研究実績の概要 |
親水性であるポリエチルオキサゾリン(PEtOx)の分子量が14000、カチオン性であるポリリシン(PLys)の重合度が51であるジブロック共重合体PEtOx-b-PLys(EtL)と、温度応答性であるポリノルマルプロピルオキサゾリン(PnPrOx)の分子量が8000、PLysの重合度が51であるブロック共重合体PnPrOx-b-PLys(PrL)、またPEtOxの分子量が14000、PnPrOxの分子量が8000、PLysの重合度が51であるトリブロック共重合体PEtOx-b-PnPrOx-b-PLys(EtPrL)を用いて、mRNAを内包した高分子ミセルを調製した。得られた高分子ミセルはどれも4度での光散乱測定において70 nm程度の粒径であったが、37度とすることで、PrLの高分子ミセルでは粒子間凝集による粒径上昇が見られ、EtPrLからなる高分子ミセルではシェルの一部疎水化による粒径減少が見られた。これは高分子ミセル中のPnPrOxの温度応答疎水化を示している。また培養細胞に対してこれらの高分子ミセルを用いてトランスフェクションした場合、EtPrLからなる高分子ミセルが一番長く持続的なたんぱく発現をする機能を持つことがわかった。ここまでの成果については、ACS Spring 2019 National meeting and Expositionなどで報告している。 得られた高分子ミセルは、山梨大学田中佑治准教授協力のもと、マウスに点眼し、眼球を摘出、担持したmRNAからの遺伝子発現性を確認した。しかしながら、現状、どの高分子ミセルからも十分な遺伝子発現性は見られていない。この結果を踏まえ、遺伝子発現効率をより高めるための新規高分子設計や、投与法を眼内投与に変えることも視野に入れつつ、新たな材料設計を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実際に疎水部を持ちmRNAを内包した高分子ミセルの開発には成功しており、細胞実験においては高い遺伝子発現性、また遺伝子発現持続性を達成している。しかしながら、実際にレポーター遺伝子であるルシフェラーゼをコードしたmRNAを用いて高分子ミセルを作成し、マウスに点眼したところ、ルシフェラーゼ遺伝子の発現は検出されなかった。眼内注射により眼内投与した場合、この高分子ミセルはルシフェラーゼ遺伝子の発現を示したため、開発した高分子ミセルが眼内で遺伝子発現を示さないということではない。おそらく点眼では、取り込み量が極めて小さいため、遺伝子発現が検出されないのであろう。これは角膜のバリア性が想定以上に高いことに起因する。また当初の計画では、角膜で分泌性たんぱくを遺伝子発現させれば、眼内までたんぱくが到達すると考えていたが、分泌性ルシフェラーゼをコードしたmRNAを内包した高分子ミセルを点眼後、角膜を含めた眼球での遺伝子発現を見ても、遺伝子発現は極めて小さかった。 これらの結果を受けて、マテリアルデザインや、投与方法を再考する必要性を感じた。改善戦略として、取り込み量が小さくとも遺伝子発現する高分子ミセルを作ることと、また投与方法を眼内注射に変更、眼内投与回数を減らすという観点から、遺伝子発現効果が長く続くよう眼内に長く留まる設計が必要となる。前者の戦略として、これまでのポリイオン会合をベースとした高分子ミセルでなく、mRNAのリン酸基と配位結合により会合し、細胞内で豊富に存在するmRNAとの配位結合の交換により放出し、遺伝子発現を促進する設計を考案した。また後者の戦略として、ポリ乳酸を含む高分子により架橋される生分解性のインジェクタブルハイドロゲルを考えた。このような戦略の変更により、進捗がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
新たに設計した、取り込み量が少量でも遺伝子発現が可能な核酸キャリアを構造最適化し、点眼剤として用いる。具体的な設計としては、ポリカチオンの替わりにジピコリルアミン(DPA)の亜鉛錯体構造(DPA-Zn)を有する高分子鎖からなるブロック共重合体を設計する。DPA-Znを有するモノマーユニットの重合度が異なるブロック共重合体を複数用意し、それぞれ核酸と高分子ミセルを調製、酵素に対する安定性や競合mRNAを加えた時の核酸の放出能を評価し、分解に対して安定かつ放出能の高い高分子ミセルを選定する。選定された高分子ミセルについては、ラットまたはマウスに対して点眼を行い、その遺伝子発現性を評価する。 他のアプローチとして、眼内注射による遺伝子発現も検討する。眼内注射による治療を想定する場合、患者への侵襲性の低減といった観点から投与回数が少なくて済むよう、長く眼内に高分子ミセルが留まる戦略が必要となる。前年度はインジェクタブルかつ加水分解性を持つハイドロゲルの設計に成功した。今年度は、上述で設計を提案した高分子ミセル、またはこれまで検討を行ってきた高分子ミセルをこのゲル前駆体と混合し、ラットに対して眼内注射し、眼内において高分子ミセルを内包した加水分解性ハイドロゲルを構築させる。そして遺伝子発現量の経時変化を観察し、遺伝子発現持続性を観察する。 マウス、ラットへの点眼や眼内投与については、山梨大学医学部の田中佑治准教授の協力を仰ぐ。
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次年度使用額が生じた理由 |
成果報告として参加した学会、ACS Spring 2019 National Meeting & Expositionが3/31~4/4と年度をまたいでの開催であり、この旅費を次年度に請求することとしたため。
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