研究課題/領域番号 |
18K18426
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 啓壮 東北大学, 医工学研究科, 特任講師 (90513614)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ハプティック刺激 / 運動方向誘導 / 3D VR / 仮想現実 / 高齢者 / リハビリテーション |
研究実績の概要 |
前年度に制作したハプティック評価機器を用いて、若年者10名、高齢者9名に計測を実施した。ハプティック評価機器の誘導する運動方向と、被験者の口頭での回答結果との正解率、及び誘導される運動が判らない(判断不可)の不明率を、それぞれ、運動方向の完全一致、及び運動軸のみの一致(側方の場合、右でも左でも側方方向が判れば正解とする条件)で求めた。結果、高齢者は右方向(外側方向)、下方向への正解率が若年者に比較して有意に低い事が判った。また、前、後方向(Y軸)への正解率も低い傾向があったが、サンプルパワーが不足し、被験者数が更に必要である事が判った。軸のみの正解率を見る解析では、X軸(側方方向)の正解率が高齢者で低く、Y軸(前後方向)、及びZ軸(上下方向)では若年者と差が無かった事が判った。また、運動方向が判別できない不明率の比較であるが、全ての条件で高齢者と若年者で有意な差は生じなかった。 次に振動の周波数の変化による比較であるが、40Hz、80Hz、160Hz、200Hzで高齢者が有意に正解率が低い事が判った。120Hzでは差が無い特徴があった。また、周波数の違いによる運動方向が判断できない不明率の比較では、40Hzでのみ高齢者が運動方向の不明を答える事が有意に多いことが判った。次に振動の強度による運動方向の正解率の比較では、1.78V、2.38V、2.68V、3.28Vで高齢者が正解率が有意に低く、また2.08Vでは若年者との差が無い事が判った。また、運動方向の判断が出来ない不明率では、高齢者、若年者とも全ての強度で差は生じなかった。以上の結果から高齢者は若年者とのハプティック刺激による運動方向の誘導に於いて、差がある条件と差が無い条件が混在している事が判った。これは、今後、ハプティック刺激を用いた高齢者への各種訓練コンテンツの制作に於いて重要な基礎情報となる事が予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
ハプティック刺激による高齢者と若年者との運動誘導刺激反応に関する計測を実施した。予め、ハプティック刺激に関する測定条件を、誘導される運動の方向を6種類(上・下・左・右・前・後)に規定し、振動周波数を40Hzの低周波から40Hz刻みで200Hzの高周波までの5条件、及び、振動強度として電圧1.78Vから0.3V刻みで3.28Vの6条件で実施し、誘導された運動方向の一致度(正解率)を求めた。また、誘導される感覚が無い場合を判断不可として、その発現率を求めた。 若年者と高齢者間で、誘導される方向の正解率の差が、周波数や振動強度により、特徴的な差が生じることが知見として得られた。現在、この計測データを元に、同時に計測している脳波や心電図、指先のガルバニックスキンレスポンス(GSR)を解析作業中である。 次に3D VRに関する計測では、計測ソフトウェアの実際の計測条件下でのパラメータの調整等を行い、数名の被験者でパイロットスタディを実施した。その結果、上半身での指先の3次元空間上のターゲット捕捉時の計測は可能となった。しかし、下半身のつま先での3次元空間上でのターゲット捕捉タスクでは、片足立位が出来ない高齢者も多く、転倒や、そもそも、3D VRゴーグルを着けた後の立位維持自体で不安を訴える高齢者も存在する事から、一旦、立位での計測を中止し、座位での計測手法を再検討する必要がある。 今回、計測予定期間にコロナウイルスによる計測室が閉鎖となり、3D VRの計測が延期となったため、3D VRの計測がパイロットも含めて計測不可の状態となっている。コロナウイルスの収束後に計測室が再開されれば、引き続き計測予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度のパイロットスタディの結果から、令和2年度は 1.触覚による運動感覚(ハプティック)の高齢者と若年者との誘導される運動方向正解率の相違の検討については、解析が終了している。今後、同時に計測した脳波計、心電図、GSRのデータとの正解率の比較を行い、ハプティック刺激が高齢者と若年者間でどのような生理学的侵襲の相違があるかを解析し、誘導される運動反応と正解率の差のメカニズムを検討する。 2.3D VR空間上の指先、足先の運動の正確性の若年者との相違:製作した計測システムを用いて3次元空間の中で出現したターゲットを、利き手指先、利き足つま先で補足するタスクを実施させて、反応時間、正確性を若年者、高齢者間で比較する。但し、計測プロトコルの検討時に於ける、数名の被験者でのパイロット計測では、つま先の3D空間上のコントロールがかなり難しいタスクとなり、実施出来ない高齢者が多く存在する可能性がある。その為、つま先のコントロールに関する計測は、申請時の立位での計測は難しい事が判った。その為、つま先のタスク計測は座位での計測を再検討する。 3.3D VR曝露下での生理学的変化の若年者との比較:2.の計測と同時に装着した脳波計や脈波、心電図等の生理学的事象計測のデータから、3D VR環境曝露時の若年者、高齢者間の比較を実施する。以上の計測、研究から近年、急激な進歩を遂げている3D VRの高齢者への運動学的視点からのリハビリテーションコンテンツへの可能性と、コンテンツ制作上の基礎データとする。2.3.については、コロナウイルスが収束後に順次計測を実施し、データを解析の後に国内学会での発表申請を行う事を目標とする。また、前年度の成果であるハプティック刺激の若年者と高齢者の特徴に関して知見が得られた内容に関しては、特許出願の可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスによる計測中止となったため、3D VR計測の被験者謝金の追加発注分を発注できなかったため、次年度使用額が生じた。この残金はコロナウイルス収束後の計測再開時に被験者謝金として使用予定である。
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