研究課題
最近のゲノム編集やジーンドライブなど生命工学の革新により、様々な生物に対する人為的な介入が可能となっている。このことは生態環境がデザインされていく領域が拡大していることを意味する。こうした背景を踏まえて本研究では、前年度に引き続き「社会と環境との関係性」が専門家や消費者においてどのように認識されつつあるのかを検討した。近年、人新世(Anthropocene)という概念も学術界で広範に用いられるようになり、その中で手つかずの自然は存在せず、自然と社会との境界が曖昧になりつつあるとの考え方が生まれつつある。ここでは何が自然であるかを決めるのは人間の側であること、また外来生物の評価も転換しつつあることで、人新世における新たな生態系(Novel Ecosystem)を不可避とする考え方も登場している。人新世の概念が社会にもたらす影響は、他の領域における科学技術と社会の関係の変化,例えば人工知能社会の倫理的問題と相似形である可能性も示唆された。人間あるいは科学技術の自然あるいは世界のなかに占める位置関係が大きな転換期に差し掛かりつつあることを含意するものといえる。しかし、生態学の専門家は、技術的介入が生態系に与える影響に関する未知の領域が大きいと認識しており、また消費者も特に動物への生物工学的な介入には大きな違和感を抱いていることが本研究で実施した調査から明らかになった。植物よりも動物において遺伝的な介入(デザイン)を行う場合には、動物福祉に関わる追加的な配慮等を政策のなかに織り込むことが不可欠である。上記で述べた人新世的な含意を有する世界観の転換と、専門家や消費者の認識との間にある差異は、今後ますます大きな軋轢に転化する可能性があることが明らかになった。科学技術の変化がもたらす影響が社会的な論争を引き起こしっつ、収斂に向かわない背景には、こうした状況が関連していると考えられる。
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