研究課題/領域番号 |
18K18444
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
加納 英明 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (70334240)
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研究分担者 |
藤井 紀子 京都大学, 複合原子力科学研究所, 寄附研究部門教員 (90199290)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | ラマン散乱 / CARS / キラリティ |
研究実績の概要 |
我々の体を構成するタンパク質はL-体のアミノ酸から構成されている。しかし近年、加齢に伴いD-体のアミノ酸(D-amino acid;DAA)が体内で出現することが報告され、その増加と蓄積がタンパク質の高次構造や機能に変化をもたらすことで、最終的に各種の加齢性疾患が引き起こされることが分かってきた。そこで本研究では、ラマン分光の技術を高度化することで、生体内の DAAがきっかけとなって生じる各種疾患の初期状態を非破壊・非侵襲にて生体から直接分光検出できる、全く新しい装置の開発を目標とした。 初年度である本年度は、DAA測定の準備段階として、当研究室で立ち上げた超広帯域マルチプレックスcoherent anti-Stokes Raman scattering (CARS)分光顕微鏡を用いたキラル分子の測定を行い、CARSによるキラル識別が可能か検証を行った。テストサンプルとして、キラルカラムの充填剤として汎用されているトリスフェニルカルバメートセルロース(CPC)を対象とした。CPCは世界中のキラル分離市場で最も実用的な充填剤となっているが、キラル分離のメカニズムについては十分明らかにはなっていない。キラルカラム充填剤であるCPCと光学活性体の間に可逆的な相互作用があると推測されるが、両者の相互作用を直接評価した例はない。したがって、本研究で得られる知見は、CARSによるキラル識別という当初目標に加え、将来の優れたキラル充填剤の開発にもつながることが期待される。 N-カルボベンゾキシバリンの光学異性体を含有するCPCを測定試料としてCARS測定を行ったところ、光学異性体の片側のみ、CPC中に多く残存していることがCARSスペクトルから明らかになった。これに加え、CPC由来のバンドを解析したところ、残存量の多いCPCほどブルーシフトするバンドがあることを見出した。以上より、CARS測定によりキラル化合物の識別に関する重要な知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超広帯域マルチプレックスcoherent anti-Stokes Raman scattering (CARS)分光顕微鏡を用いたキラル分子の測定により、キラル化合物の識別に関する重要な知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度得られたキラル化合物識別法の知見を活かし、coherent anti-Stokes Raman scattering (CARS)によるDAAの検出を目指す。特に水晶体にターゲットを絞ることで、白内障などの疾患組織におけるDAAの検出にチャレンジする。研究分担者は、DAAのキー・アミノ酸残基であるアスパラギン酸(Asp)のL体をD体に改変した複数のポリペプチドを合成・保持している。Aspは4つの異性体があるが、興味深いことに白内障やアミロイドβなど各疾患により、出現するDAAが異なることもわかってきている。そこで、複数の疾患モデル・ポリペプチドを対象として、DDAがCARSスペクトルに与える分光学的指標を探索する。測定には、当研究室で開発・改良を重ねているマルチモーダル非線形光学顕微鏡を用いる。本装置により、分子振動基音すべての測定が可能であることに加え、複数の非線形光学過程を同時に発生・検出することも可能である。超広帯域マルチプレックスCARSスペクトル測定を主な手法として採用しながら、同時に発生・検出できる第二高調波発生(second harmonic generation; SHG)、第三高調波発生(third harmonic generation; THG)等のチャンネルも注意深く解析し、DAAに由来する分光学的指標の探索を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の研究で当初想定していなかった新しい信号を発見した。この信号も同時に検出できるよう装置の改良を施す必要があり、その器材の選定に時間を要した。次年度は、分子キラリティー検出のために最適な光学素子及び最適な試料ホルダーの作成のために資金を活用する。
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