研究課題/領域番号 |
18K18449
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
須釜 淳子 金沢大学, 新学術創成研究機構, 教授 (00203307)
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研究分担者 |
真田 弘美 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (50143920)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 看護理工学 / 慢性浮腫 / 高齢者 |
研究実績の概要 |
高齢社会において健康寿命延伸の鍵は歩行能力の維持である。歩行することにより、食・排泄・運動の日常生活が維持され、さらに様々なコミュニティに出かけることで社会的なwell-beingの獲得が可能となる。一方、後期高齢者には、活動性の低下に伴う長時間座位の増加、加齢に伴う循環機能・下肢筋力・皮膚張力・栄養状態の低下など、環境・身体要因により下肢慢性浮腫が生じやすい。申請者らは、後期高齢者の歩行機能低下に影響するが、“年だから仕方ない”と本人・家族、医療・介護従事者からこれまで看過されてきた下肢慢性浮腫に焦点をあて、浮腫を軽減するための新たなケアデバイスの開発を行う。 平成30年度は高齢者を対象とする前段階として健康成人を対象に測定系の確立を試みた。皮膚圧迫圧測定機器としてピコプレス(Microlab Elettronica, Italy)を選び、測定部位を8カ所(足背部、内果4㎝近位部、腓骨頭7.5cm遠位部、内果4㎝近位部と腓骨頭7.5cm遠位部を結ぶ線上の中点)候補とした。また、圧迫後の還流を計測する下肢の静脈を左下肢膝窩に位置する大伏在静脈とし、リニア型探触子を用い超音波診断装置(Nobulas、日立アロカメディカル)にて測定することにした。超音波診断装置画像から、血管径と血流速度を計測した。さらに皮下組織厚を計測した。実験条件を検討後、医学倫理審査委員会の承認を得て、健康人を対象とした計測を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
健康人を対象に包帯下圧迫圧の違いが大伏在静脈血流量にどのように影響するのかを被験者の皮下組織厚別に検討した。研究デザインは準実験研究で、健康な若年成人40名(平均年齢は男性21.3±1.4歳、女性21.7±0.8歳)を対象とした。左下腿へ弾性包帯を10mmHg、20mmHg、30mmHg、40mmHgで巻くこととし、対照は巻く前の左下腿の状態とした。超音波画像診断装置で大伏在静脈の血管径・血流速度を計測し、皮下組織厚の値で分類した厚い群と薄い群で比較した。 皮下組織厚平均値は、男性の厚い群が9.0mm、薄い群が5.1mm、女性の厚い群が12.0mm、薄い群が8.0mmであった。男性の皮下組織厚い群は包帯装着前の大伏在静脈血流量193.85mm3/sに対し、全ての包帯下圧迫圧において小さい値であった。一方、男性の皮下組織薄い群は包帯装着前の大伏在静脈血流量72.98mm3/sに対し、全ての包帯下圧迫圧において大きい値であった。女性の皮下組織厚い群は包帯装着前の大伏在静脈血流量205.75mm3/sに対し、全ての包帯下圧迫圧において小さい値であった。女性の皮下組織薄い群では包帯装着前の大伏在静脈血流量113.64mm3/sに対し、40mmHgにおいて小さい値であった。 包帯装着前から各包帯下圧迫圧の大伏在静脈血流量変化量は、男性では両群ともに有意な変化は見られなかったが、薄い群において10mmHgと比較して、40mmHgで血流量の減少傾向が見られた(50.0mm3/s, p=0.065)。女性の皮下組織薄い群では10mmHgと比較して、40mmHgで大伏在静脈血流量が有意に減少した(60.8mm3/s, p=0.048)。F-thin群では20mmHgと比較して、40mmHgで大伏在静脈血流量が有意に減少した(60.8mm3/s, p=0.010)。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、後述する3段階の多分野融合型アプローチにより下肢慢性浮腫管理における安全かつ適切な下肢圧迫療法用サポーターを開発し、後期高齢者の歩行機能維持につなげる計画である。高齢者の自立歩行を最後まで支えるケアを提供する観点から、①歩行可能な後期高齢者を対象に、下肢圧迫圧と循環動態負荷との関係を検討し、循環器内科医と共同で循環動態負荷の少ない加圧範囲を決定する。②看工-産学連携により試作品を作成し、MRIイメージング、力学センサーによる評価を実施、着脱が容易で履き直しフリーな後期高齢者の下肢浮腫管理用サポーターを開発する。③シングルケース研究デザインにて、開発した下肢浮腫管理用サポーターの効果を循環器内科医、国際慢性浮腫ケア研究チームと共同で検証する。 今後、①を着実に進める。対象者をリクルートする場として、研究者が2013年以降高齢者の慢性浮腫に関する臨床調査を共同で行ってきた特別養護老人ホームを予定している。高齢者用の実験プロトコルを作成し、循環器内科医と連携して安全性を確認しながら行う。事前に心エコーによる対象の選定、実施中の経皮的動脈血酸素飽和度モニターを行う。また、前年度の健康人を対象とした基礎実験結果を基に、下腿周囲径に加えて、組織厚も基本身体計測項目に追加する必要がある。 ②看工-産学連携により試作品を作成する準備に着手する。試作品に必要な慢性浮腫を有する高齢者の下肢計測を行う。計測箇所については、試作品の作成を依頼する企業担当者と打ち合わせを行った。サポーターは圧迫圧を負荷するため編み型に工夫がなされる。このため下肢の動きに伴って、擦れ、しわが生じる、それによって浮腫を有する脆弱な皮膚が損傷を受ける危険性もある。この点も試作品に関する安全性の検討に含める必要があると考えている。
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