我が国をはじめとした多くの先進国では平均寿命(生命寿命)の延びにより超高齢社会が始まっており、健康寿命が平均寿命に近づくことが切望されている。加齢により筋量・筋力が減少するとともに筋損傷からの回復に時間がかかり寝たきりになりやすい(サルコペニア)。筋損傷からの回復(再生)には筋サテライト細胞(筋幹細胞)が重要な役割を果たす。老齢時に筋再生能の低下が知られており、筋サテライト細胞の機能が低下している可能性があるが、その詳細は不明な点が多い。高齢者が自立した生活を送るためには、骨格筋の維持は必須であり、加齢による筋再生能低下のメカニズムの解明が求められている。研究代表者は、様々な筋萎縮時に骨格筋でDnmt3aの発現が低下することを見出し、骨格筋特異的Dnmt3a欠損を作製し、筋再生能が低下していることを見出した。そのため、このマウスは老化による筋再生低下モデルマウスであると考え、解析を行った。筋再生時に活性化し、新しい筋線維を作る未分化の骨格筋幹細胞である筋サテライト細胞に着目し、Dnmt3a-KOマウスにおいてサテライト細胞でDnmt3aの発現が低下していることを見出した。また、Gdf5(Growth differentiation factor 5)のプロモーター領域のDNAメチル化が減少し、発現が増加させ、サテライト細胞の分化を抑制することを見出した。本研究において、加齢を含む筋萎縮による筋再生能低下のメカニズムをDNAメチル化で説明する仮説を提唱した。これらの結果から、筋萎縮時の筋再生能低下にはDNAメチル化酵素の発現低下によるエピジェネティクス制御が示唆された。
|