研究課題/領域番号 |
18K18462
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
加藤 啓子 京都産業大学, 生命科学部, 教授 (90252684)
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研究分担者 |
大渕 修一 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究部長 (50265740)
田中 雅嗣 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 国立健康・栄養研究所, 客員研究員 (60155166)
黒坂 光 京都産業大学, 生命科学部, 教授 (90186536)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 高齢者 / フレイル / うつ / てんかん / 尿 / ガスクロマトグラフィー質量分析計 / モデルマウス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,非侵襲である尿をガスクロマトグラフィー・質量分析計で計測することにより,高齢者のうつ,不安症をはじめとした精神神経疾患の有無や重症度を客観的数値で評価する診断法を確立し,高齢者に負担の少ない検出を目指している。また,ヒトとモデルマウスからバイオマーカーを検出し,ヒトで得られたバイオマーカーの代謝システムが,マウスモデルと一致あるいは,類似するのかについても検証する。これまでに高齢者コホート調査時に提供いただいた尿からバイオマーカーを特定した。具体的には,健常者(9名)及びうつ・不安症を抱えた者(9名)計18名の尿から,157個の化合物を特定し、特定のイオンピーク(m/z)面積で相違を認めた6種の化合物を選択した。Combined Indexを用いたヒト・受信者操作特性曲線(ROC)分析の結果,3種の化合物(hNO2, hNO3, hNO4)群および,2種の化合物(hNO5, hNO6)群は,曲線下面積(AUC)がそれぞれ0.91 と 0.99 と著しく1に近く,感度も共に1と,偽陰性のないバイオマーカーであった。また,3種化合物群は,ハミルトンうつ病評価尺度と,2種化合物群は基本チェックリストと相関性が高く,共に高齢者うつの検診に利用できる可能性が高いことがわかった。一方,マウスうつ・不安症モデルのバイオマーカーでは,高齢者うつのバイオマーカー候補である2種の化合物(hNO5, hNO6)群と一致した。マウス側頭葉てんかんモデルでは,ステップワイズ線形判別分析により,3個のバイオマーカーセットを決定した:メタンチオール (0.8727),2-ブタノン(0.8182),にジスルフィド,ジメチル(0.9091)。以上,高齢者うつ,モデルマウスで,バイオマーカーの特定に成功し,それぞれの代謝経路において一致あるいは,類似点を見つけることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ヒトにおいては,高齢者コホート調査時に提供いただいた尿からバイオマーカーの特定に成功した。さらに,2019年度「お達者検診」に参加し,「高齢者うつ」スクリーニングにより,うつに罹患の可能性のある約90名の高齢者の尿を採取させていただき,これまで得てきたバイオマーカーの検証を行う素地ができている。 モデルマウスを用いた,うつやてんかんのバイオマーカーを検出した結果を,それぞれ原著論文にまとめた。また,うつ・不安症モデル及び,てんかんモデルマウスのバイオマーカーと高齢者うつのバイオマーカーの代謝経路の一致,あるいは類似経路を特定することができた。ヒトと高い相関を持つモデルマウスを用いることで,うつに関連する代謝経路の解明に道をつなげることができた。以上のことから,当初の計画以上の結果を得ることができたと評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本申請者らは,高齢者とうつ・不安症モデルマウス,さらに側頭葉てんかんモデルマウスの尿中揮発性有機化合物のガスクロマトグラフィー・質量分析による測定系を開発し,3つの特許出願と2つの原著論文の出版を終えている。特に,高齢者尿とうつ・不安症モデルマウス尿は,ヒトとマウスで同一の「ヒト・マウス バイオマーカー」を含み,物質名の特定にも成功している。それゆえ,今後は以下の2点につき研究を進めていく。 (1) 高齢者うつ,モデルマーカーのバイオマーカー群を利用した,うつの早期診断に提供できる新定量化計量機器システムの構築に着手したい。 (2)高齢者うつのバイオマーカーとモデルマウスのバイオマーカーの代謝経路を特定し,一致した経路を見つけた。このヒト・マウスモデルに共通した代謝経路を特定し,律速酵素を見つけることで,診断の確実性を向上させ,創薬につなげていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度「お達者検診」に参加し,「高齢者うつ」スクリーニングにより,うつに罹患の可能性のある約90名の高齢者の尿を採取させていただき,京都産業大学に送付した。想定よりも,コホート調査結果の判明に時間を要しており,2018~2019年度に解析してきたバイオマーカーとの関連性の確認が遅延している。よって,1年間の延長を希望する。
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