研究実績の概要 |
本研究の目的は,非侵襲である尿をガスクロマトグラフィー・質量分析計で計測することにより,高齢者のうつ,不安症をはじめとした精神神経疾患の有無や重症度を客観的数値で評価する診断法を確立し,高齢者に負担の少ない検出を目指している。また,ヒトとモデルマウスからバイオマーカーを検出し,ヒトで得られたバイオマーカーの代謝システムが,マウスモデルと一致あるいは,類似するのかについても検証する。これまでに高齢者コホート調査時に提供いただいた尿からバイオマーカーを特定した。具体的には,健常者(9名)及びうつ・不安症を抱えた者(9名)計18名の尿から,157個の化合物を特定し、特定のイオンピーク(m/z)面積で相違を認めた6種の化合物を選択した。Combined Indexを用いたヒト・受信者操作特性曲線(ROC)分析の結果,3種の化合物(hNO2, hNO3, hNO4)群および,2種の化合物(hNO5, hNO6)群は,曲線下面積(AUC)がそれぞれ0.91 と 0.99 と著しく1に近く,感度も共に1と,偽陰性のないバイオマーカーであった。また,3種化合物群は,ハミルトンうつ病評価尺度と,2種化合物群は基本チェックリストと相関性が高く,共に高齢者うつの検診に利用できる可能性が高いことがわかった。一方,マウスうつ・不安症モデルのバイオマーカーでは,高齢者うつのバイオマーカー候補である2種の化合物(hNO5, hNO6)群と一致した。マウス側頭葉てんかんモデルでは,ステップワイズ線形判別分析により,3個のバイオマーカーセットを決定した:メタンチオール (0.8727),2-ブタノン(0.8182),にジスルフィド,ジメチル(0.9091)。以上,高齢者うつ,モデルマウスで,バイオマーカーの特定に成功し,それぞれの代謝経路において一致あるいは,類似点を見つけることに成功した。
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