研究課題/領域番号 |
18K18468
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
貞廣 良一 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 特任研究員 (70571644)
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研究分担者 |
青木 一教 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 副所長・分野長 (60270675)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 術後せん妄 / バイオマーカー / 炎症性サイトカイン / 末梢血ドパミン / データベース作成 |
研究実績の概要 |
超高齢社会において、「せん妄」は普遍的ながら重篤な疾患であり、消失後にも死亡率上昇、自立性低下及び認知機能低下を続発的に生じることが明らかとなり、世界的に関心が高まっている。またせん妄はがん医療及び緩和ケアにおける克服すべき重要課題の一つであり、超高齢社会に呼応し適応が拡大する健常高齢者の手術成績や、Quality of Lifeの維持に深刻な影響を及ぼしている。しかし、その生物学的機序は未解明のままであり、未だ確立された予防及び治療方法がない。本研究は免疫学的機序に着目し、炎症性サイトカインと末梢血ドパミンから術後早期にせん妄発症を予測するバイオマーカーを探索する。また同時に術後せん妄のデータベースを作成することで、継続的なせん妄予防研究の基盤を作ることを目的としている。2019年度は、外科的がん切除後のせん妄予測バイオマーカーを探索する研究基盤として高侵襲外科的がん切除の術後せん妄コホートの患者登録と、せん妄症状の評価を完遂し、データベースを構築した。具体的には累計327名から同意を得て周術期の観察を行い、血液試料と臨床情報を蓄積した。また術式変更等を除いた286名において、炎症性サイトカインのInterleukin-6(IL-6)と免疫抑制性サイトカインのTransforming growth factor-beta1とせん妄の関連を検討し、手術直後のIL-6が低活動型せん妄を予測することを示し、発明申請を行った(特許申請を準備中)。またサイトカインアレイを用いて術後せん妄と関連するサイトカインの網羅的探索を行い、プロラクチンが口腔・咽頭・喉頭・食道がんの術後せん妄に対する新規バイオマーカーとなる可能性を示した(発明申請済)。尚、これらの成果の内で、サイトカインのバランスが炎症に傾くことが術後せん妄と関連する可能性を第78回日本癌学会学術総会で公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度の目標は、1)今後の術後せん妄研究基盤となる術後せん妄コホートのデータベース作成完遂と2)炎症性サイトカインを中心とした免疫学的解析としていた。 実際に、1)患者登録とせん妄評価を完遂しただけでなく、関連する臨床情報の登録を完遂し、せん妄が長期的に影響するアウトカムとして、術後1か月後・半年後の認知機能評価を加えることが出来た。またこれまでの術後せん妄研究で明らかにされていないせん妄の表現型のバイオロジーを検討するために、Delirium Rating Scale-Revised-98を用い13症状を 術後5日間評価し、症状ごとに異なる推移を検討した。その成果として、IL-6が低活動型せん妄を予測することを見出した。またこれらのデータベースを研究基盤として、日本医療研究開発機構より支援を受け、「外科的がん切除後のデクスメデトミジンによる鎮静に不応な重症せん妄発症を予測するバイオマーカーの開発(革新的がん医療実用化研究事業:上園班)」へ、研究を発展させている。 また2)サイトカインとの関連を解析し、その一部を学会発表しただけでなく、IL-6を用いた低活動型せん妄の予測について特許取得の準備として、発明申請を行うことが出来た。IL-6の他に、サイトカインアレイを用いた網羅的探索で見出されたプロラクチンとせん妄の関連について、口腔・咽頭・喉頭・食道がんの術後せん妄に対する新規バイオマーカーとして発明申請を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に研究基盤を構築でき、更に炎症性サイトカインを中心に免疫学的解析を実施することが出来た。 2020年度は、A)上記結果を公表するため、特許取得を目指しながら、知財担当者と相談の上で論文化を進める。B)末梢血ドパミンとせん妄の関連を調べるため、B-1)血漿中のドパミンを高速液体クロマトグラフィーなどの方法で測定する。またB-2)免疫細胞のドパミンに関する機能がせん妄発症にもたらす影響を探索するために、Flow cytometryによりドパミン受容体や細胞内のドパミンが陽性の免疫細胞を同定し・せん妄との関連を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
必要物品の購入や外注のために助成金を使用したが、端数の残額が生じた。 残額の88,400円は次年度に末梢血ドパミン解析のため使用する。
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