研究課題/領域番号 |
18K18469
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
粟田 主一 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究部長 (90232082)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 認知症 / 地域拠点 / モデル開発 / 権利ベースのアプローチ / 尊厳ある地域生活 |
研究実績の概要 |
認知症である本人が、尊厳ある地域生活をおくれる社会を創出するためには、必要な社会支援を調整する仕組(コーディネーション)とともに、必要な社会支援の利用や提供を可能とする地域社会の構造(ネットワーク)をつくりだす歩みが不可欠である。この仮説を検証するために,東京都板橋区高島平地区を研究フィールドにして、以下の研究を実施した。(1)モデルの開発と開発プロセスの可視化:1)東京都板橋区高島平2丁目の住宅地内に,認知症の有無に関わらず,障害の有無に関わらず,地域に暮らす人々が自由に訪れ,交流できる地域の拠点「高島平ココからステーション」を設置し,ここを認知症の当事者らが集える居場所にするとともに,生活支援を創出する拠点とした.2)ここで,認知症の当事者の協力を得て,地域に暮らす認知症の当事者に呼びかけ,「生活のしづらさ」「住みやすい社会」「希望」などをテーマに自由討論を行う本人ミーティングを毎月1回開催し,当事者とともに「認知症とともに暮らせる社会」をつくる活動の基盤とした.3)上記の活動と並行して,コーディネーター(社会支援サービスの調整に関わる専門職:行政職員,地域包括支援センター職員,介護支援専門員,認知症サポート医等)とサポートワーカー(生活支援の担い手となる当事者,家族,地域住民等)を対象に,「認知症」と「人権」にフォーカスをあてた研修会を定例的に開催した.結果:以上のプロセスを通して,1)地域の拠点や研修会に参加する人々の人権意識が高まること,2)多様な生活支援のイノベーションとネットワーキングが進展すること,3)当事者が参加する本人ミーティングが継続され,参加者も拡大する傾向が見られること,4)当事者の社会参加が促進されることが明らかになった.(2)地域に暮らす認知症の当事者を対象に、「尊厳ある地域生活の継続」をアウトカムの指標とする長期縦断研究の基盤を確立した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年2月以降、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて,地域拠点の活動を停止した.そのため,本研究の核となる本人ミーティングを開催することができず,当事者からの意見聴取を年度内に完了することができなかった.
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今後の研究の推進方策 |
2019年6月に「共生と予防」を全体目標とする認知症施策推進大綱が閣議決定され,74項目の政策指標が設定された.しかし,設定された政策指標は,関係諸機関の提案によるもので,その科学的根拠は希薄であり,理論的基盤は脆弱である.実際に,認知症施策推進大綱については,認知症である当事者や家族介護者,認知症支援に取り組む諸団体からの批判に直面している.こうした状況が形成された背景には,政策指標の策定にあたって十分な時間が確保されていなかったという政治的事情もあるが,そもそも認知症国家プランの政策指標開発に向けた学術的研究がこれまでほとんど行われてこなかったというアカデミアの責任も大きい.本研究によって可視化された「認知症である本人が、尊厳ある地域生活をおくれる社会」を創出するためのモデルを基礎にして、権利ベースのアプローチと言う観点から、わが国の認知症施策の全体目標の一つである「共生」の指標を定め、それを評価していくことがこれからの課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年2月~3月に当事者を対象とするインタビュー調査を完了し,データの入力・分析を行う予定であったが,新型コロナウイルス感染症拡大を受けて,調査を停止した.2020年度には7月以降に当事者を対象とするインタビュー調査を再開させ,それに要する人件費にあてる計画である.
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