研究課題/領域番号 |
18K18473
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
佐々木 香織 札幌医科大学, 医療人育成センター, 教授 (40758314)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 生政治 / 医療情報 / ANT(アクターネットワーク理論 / 市民社会 / ビッグデータ / オプト・アウト / 次世代医療基盤法 / 利活用 |
研究実績の概要 |
本研究は医療情報の電子化を推進・展開する政策・研究・実践と、市民社会との関係性を、生政治の視点とANTアクター・ネットワーク理論を導入して探究するものである。具体的には関連領域の文献調査、ステークホルダーへの参与観察や聞き取り調査、そして生政治とANTの理論的な枠組みを通じて調査内容を分析する。 21年度はコロナ禍を鑑み、参与観察と聞き取り調査は中止し、昨年度に代替策として考案したソーシャル・メディア分析へのシフトを企図した。そこでSNS言説の調査を4月から始めたがANTを用いた理論枠組を用いた分析方針との乖離が、予想以上に大きくなることが判明してきたので、この方針は6月半ばに破棄することにした。6月半ば以降は、以下に示すような文献調査、onlineで可能な範囲の聞き取り調査、そしてある種の参与観察を行った。文献調査では、現下に展開する医療情報のネットワーク化と利活用に関して、現場での対応、研究者が持っている展望、ステークホルダー達の政策的な展望を論じるものを収集し、その読み込みをすすめた。onlineでの聞き取りでは、医療情報を通じた生政治的な活動を展開している・または政策を推進しようとする諸団体の方々を対象として現状把握に努めた。更に医療情報利活用をに実践している研究者とのコラボチームにも参画し、研究者の関心と現状の課題を参与観察的に知ることができた。 これらの過程で明らかになった点は、医療現場の人びと、医療情報研究者、政策的な利活用の推進者、企業の利活用者、基盤を整備する認定事業者、各施設にある医療情報とIT機器という諸々のアクター間のネットワーク展開が、暫定的でかつ各局面でバラバラにしかし一定の特長をもって派生と発展をしている点である。なお成果発表は、国際学会で1回、国内のワークショップで2回の発表をし、貴重なフィードバックを得たので、それらを研究に生かすつもりである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
最大の理由は、最初の1年目で家庭の諸事情と本人の健康状態に問題が生じたことで研究が大幅に遅れてしまった影響である。更にコロナ禍も重なり、ANTの理論構築を盤石にするための海外研修が不可能だったこと、そして参与観察や聞き取り調査のために現地へ赴くことができなかった点も、研究へ負の影響を与えた。 しかし今年は遅れを取り戻す方向に舵を切れた1年でもあった。なぜなら本人の健康状態がかなり快方に向かったこと、さらに家庭の事情(特に老親の健康状況)も、様々なサポートを漸く得ることが可能となり、また老親の病状も安定してきたので、何かと不測の事態の対応で計画が狂うことが減ったからである。時間は本研究計画を立案した当初よりかは限られているが、ある程度は事態収拾が予測可能な範囲で進むため、研究をコンスタントに取り組むことが可能となった。そのためある程度は遅れを取り戻すことができた。 一方で、自身の人生計画に無かったのだが、昨年度末に所属大学の移籍が決まるという想定外の事態は、本研究の推進に影響を及ぼした。社会科学の単科大学から単科の医大への移籍は、職場環境と任務が想像以上に激変であったため、多方面に戸惑いながら任務を遂行せねばならず、予想以上の研究時間のロスがあったことは否めない。
全般として、遅れていた研究を以前より進めることができたが、昨年度末に期待したほどは進められなかった。次年度は移籍先の大学の環境にも慣れてきたことから、後れを取り戻せるように研究活動を展開したい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は理論と調査の二つに分かれる。理論研究としては、アクターネットワーク理論(ANT)の応用と発展の探究がある。こちらは文献でかなり学べたので、計画していたANTが発展している海外での研修は、コロナ禍の影響を鑑みて中止とする。もっとも理論への質問事項などを、海外の研究者とメールやウェブ面談で明らかにして、理論を日本の現場へ応用を確実にしていけるよう励むつもりである。 調査研究は、医療情報と生政治と科学技術の関係を明らかにすることにある。コロナ禍も考慮して、オンラインを活用しつつ、可能であれば予定していた日本の各地域の現場に実際に赴き、参与観察と聞き取り調査を実践する。特に調査と分析で注目するのは以下の3点である。①行政や医師会と連携して政策的に医療情報の連携と利活用を進めている地域のアクターたちのネットワークの形成とそのダイナミクス、②企業と研究者がコラボして進めている地域における、諸アクターのネットワークの形成とそのダイナミクス、そして③研究者が創意工夫で医療情報路活用している研究の現場における諸々のアクターのネットワークの形成とそのダイナミクスである。 この3つの局面におけるアクター・ネットワークの検討から、以下2点を考察する。それは④生政治を先行研究のように哲学的・政治的な側面で議論するだけではなく、科学技術的側面と医療研究者と善意の様々なステークホルダーの活動から、医療情報の活用を通じて生政治が展開している過程、⑤上述の諸々の局面で形成されている様々なアクター・ネットワークが市民社会へどのように影響を及ぼしたり、及ぼされているのか。このことにより、以下の成果が期待されうる⑥ANTの応用発展可能性の探究、⑦医療情報が担う社会的な役割、生政治のあり方、そして科学技術(すなわちIT)と社会の関係に対する新たな知見や議論。これにより研究目的を達成したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた国際学会の発表がオンライン開催となったこと、更に英国訪問による現地調査がコロナ禍で不可能となったことが最大理由である。この残額は、日本の各地域の医療情報のネットワーク化と利活用の進んでいる地域への調査と調査に必要な諸経費に充てていく予定である。またコロナが落ち着つき、海外に出あれるようであれば、国際学会での発表も視野に入れたい。
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