研究課題/領域番号 |
18K18475
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
井口 壽乃 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (00305814)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | ニュー・バウハウス / ネイサン・ラーナー / 東欧移民 / 1930年代 / マックスウェル・ストリート / ウィル・バーティン / 科学技術 / 冷戦 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、ニュー・バウハウスの初代学生で後にスクール・オブ・デザインの教師となったユダヤ系ウクライナ移民の2世のネイサン・ラーナーについて、遺族の所蔵する作品を分析・考察した。1930年代のシカゴ・マックスウェル・ストリートの写真にみる、東欧移民の人々の生活など歴史資料と照らし合わせ、芸術にどう表象されたかを考察した。世界恐慌下の南西部の農村地帯の実態を調査したFSA農業局プロジェクトの記録写真とラーナーが撮影した写真の比較を行った。ラーナーがマックスウェル・ストリートで撮影した移民の写真には、人間の尊厳を見つめる眼差しがあらわれている。 また、ラーナー夫人へのインタヴューから、ノーベル文学賞受賞者のアラン・ブルームとの交流関係が判明した。ニュー・バウハウスが開校した当時のシカゴの都市環境と社会生活者の感覚、文化的空間の形成が総合的に浮き彫りになった。 本研究の目的であるヨーロッパとアメリカのデザインのハイブリッド化を解明するため、第二次世界大戦中にドイツから米国に移住したグラフィック・デザイナーのウィル・バーティンのデザインの仕事を先行研究を精査した。戦時下におけるバーティンの活動には、米国戦略情報局とインフォメーション・エイジェンシーのプロパガンダのためのデザインを手がけていることが判明した。 昨年度の研究においてジェルジ・ケペシュのデザインにはサイエンスへ接近があることを実証したが、バーティンによる製薬会社Upjohnのための展示デザインからも同様のデザイン思想がみられる。これによって、ヨーロッパのモダンデザインの思想と手法は、冷戦期の政治状況を背景に、産業界および政治と密接な関係の上に展開されたことが明らかにされた。その時、移民芸術家の果たした役割は極めて重要であったと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍が国内外で依然として続き、海外調査ができなかったため、予定していたシカゴ歴史博物館のネイサン・ラーナーに関する資料収集ができていなかったため、ラーナーによるプロダクトデザインに関する研究は遅れている。 研究方法を一部修正し、同時代のドイツ人移民のウィル・バーティンとの比較研究を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
①ネイサン・ラーナー研究の成果公表のため、単著として出版する(東京パブリッシングハウス)。あわせてネイサン・ラーナーの展覧会を横田茂ギャラリー(東京都港区)にて、2023年1月に開催し、研究成果を一般に公開する。 ②ニューバウハウスと同時代にドイツから米国に移住したグラフィック・デザイナーのウィル・バーティン(Will Burtin)について、戦時下の米国におけるデザイン活動について資料収集および調査を行う。ニューヨーク州ロチェスター工科大学のアーカイヴに所蔵されているバーティンの資料から、戦前のモダニストたちのヴィジュアル・コミュニケーションの理論と方法が米国のプロパガンダにどのように、活用されたのかを分析する。 ③モホイ=ナジ、ケペシュ、ラーナー、バーティンのそれぞれのデザインの仕事を比較検証し、移民芸術家のデザイン活動を歴史的、社会的、政治的側面と総合しつつ、ヨーロッパとアメリカのデザインのハイブリッド化を実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に必要な書籍を購入したが、計画していたシカゴ歴史博物館における調査がコロナ禍で渡航できなかったことにより、支出に差額が出た。2021年から2022年はシカゴ歴史博物館のアーカイヴのリノベーション工事のため、必要としている資料調査ができなくなった。 2022年春以降、米国入国が緩和されたので、来年度前半にはロチェスター工科大学のアーカイヴに所蔵されているウィル・バーティンの資料調査を計画し、予算は旅費として使用する予定である。
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