最終年度である2022年度は、ロチェスター工科大学のアーカイヴ所蔵のウィル・バーティンの資料調査とシカゴ歴史博物館のアーカイヴ所蔵のネイサン・ラーナーの資料調査を行なった。ドイツ人移民バーティンの戦時下のデザイン活動については、空軍のためのマニュアル・デザイン、アメリカ情報局(USIA)のためのプロパガンダ・デザインが解明された。 ウクライナ移民の両親を持つシカゴ生まれのユダヤ人芸術家ネイサン・ラーナーについて、ニュー・バウハウスとの関連を中心に彼の絵画、写真、デザイン、映像作品を調査し、全体像を明らかにした。遺族の所有するラーナーの作品を閲覧し、ラーナー夫人へのインタヴューによって作家の知られざる芸術観が解明された。さらにシカゴ歴史博物館アーカイヴに保管されているラーナーの資料からは、①ジェルジ・ケペシュ、グロピウス、石元泰博らとの人的交流について、②インスティテュート・オブ・デザインにおけるデザイン教育内容、③1960年代のラーナー・デザイン事務所の活動、④1970年代のラーナーに対する評価についての新たな情報を得た。 2023年2月13日ー3月10日、YOKOTA TOKYO画廊にて「ネイサン・ラーナー展」を企画し、同時に著書『ネイサン・ラーナー』を出版した。展示では、シカゴのマックス・ウエル通りで撮影された1930年代の写真に、ラーナーの視覚表現の原点があること、ニュー・バウハウスの光工房でのライトボックスの制作とライトボックスを用いた写真には、光の作用を追求したラースロー・モホイ=ナジの芸術思想を継承しつつ独自の表現があること、絵画作品に3次元的な構成が見られること、実験的なカラー・フィルム映像を初公開した。 研究期間全体を通じて、東欧移民の芸術家はヨーロッパのモダンアートの思想をアメリカに移植し、それが特に科学と芸術の融合に顕著に現れていることが実証された。
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