研究代表者の秋山は、5月にドイツ各地で文献史料調査を行うとともに、フライブルク大学におけるシュリンク教授追悼シンポジウムに参加し、出席した諸国の研究者と作品記述に関する議論を行なった。また、秋山と松崎は、聖地風景と造形物の記述の比較を行うべく、6月にジュネーヴ大学ダリオ・ガンボーニ教授とともに熊野を訪れ、聖地風景および造形物の記述についての議論を行うとともに、新宮市の環境問題研究会において、アニコニズムについてのフォーラムを開催し、地元研究者と議論し、新知見が得られた(講演翻訳は刊行済)。なお、地元研究者の協力を得、同教授とさらに連携を深め比較研究を進展させるべく、欧州における絵解きのフォーラムを計画中である。また、これまでの成果の一部の発表として、フィレンツェでの第35回国際美術史学会世界大会において座長を担当した宗教的幻視をテーマとするセクションにおいて、秋山は造形とヴィジョンの記述の相関性に関わる考察を、松﨑は修行の場としての懸造についての発表を行ったが、後者は現地マスコミで報じられた。秋山は11月には早稲田大学の国際研究集会に招かれ、ミュンヘン大学の研究者等と意見交換ができ、12月には青山学院大学の研究集会において日本やイスラム研究者との議論を通じて新知見を得ることができた。1月には「聖地の記述/記録」と題した学際的なシンポジウムを「東大人文・熊野フォーラム」として行ない、様々な記述についての議論を行ない新知見を得た。とりわけ分野によって記述概念が相違する点が、今後の研究展開に大きな示唆を与えた。なお、前年度の成果の一部が反映された佐藤の単著『若冲伝』は2019年度の芸術選奨文部科学大臣賞を受賞、また本研究の成果と活用して松崎が懸造に関する単著『山に立つ神と仏』を上梓した。
|