研究実績の概要 |
感染症の影響により研究期間の延長を行い、予定の延期や一部変更を伴いながらも、新潟大学旭町学術資料展示館主催の企画展「中村恭子日本画作品展:書割少女」(新潟)やArt Space Kimura ASK?主催の企画展「中村恭子・郡司ペギオ幸夫展:立ち尽くす前縁・立ち尽くされた境界」(東京)に招待され、本研究の成果を網羅的に示した。また、本研究期間終了後の会期となったが、諏訪市美術館主催の企画展「中村恭子日本画作品展:脱創造する御柱」(長野)に招待された。それぞれの展覧会においてはシンポジウムやトークイベントを独自企画し、研究成果を広く一般に公開した。本研究の目的は、創造性の理論的探求と制作による実践を通して、芸術とはなにか、創造性とはなにかを明らかにするものである。これまでの研究で、M. デュシャンの「藝術係数」やG. アガンベンの「脱創造」、分担研究者の郡司の「トリレンマ」などの理論を展開しながら、これらの議論の中心にある「不在」の表出が創造への契機であるとして、そこに「書き割り」と呼び得る理論的構造を見出した。これにより、この構造を用いた不在の積極的な現出方法を明らかにすることができた。この方法は、自らの作品の実践を典拠にして実証したほか(2021, Philosophies)、郡司との共著で、「書き割り」に準直和ブール代数系という量子論と関係の深い論理構造が現れることも明らかにした(BioSystems, 2022; World Scientific, in press)。先に挙げた中村恭子・郡司ペギオ幸夫展は、この理論構造についてもとより藝術家である中村だけでなく郡司も制作で実践し得ることを示したものである。ここまでの成果は当初の研究計画以上の進展と言える。出版が遅れているが、本研究の成果を含む書籍の刊行が京都学術出版会の出版企画にも採択されており、近く出版する。
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