研究課題/領域番号 |
18K18484
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
脇山 真治 九州大学, 芸術工学研究院, 教授 (00315152)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 展示映像 / アーカイブ / デジタル映像 / マルチ映像 / 全天球ドーム映像 |
研究実績の概要 |
デジタル展示映像は博覧会や博物館のために制作・上映される特殊な映像のうち、デジタル映像による表現とシステムの総称である。上映が終了後に組織的に記録・保存されることがないために、世界的にみても「展示映像アーカイブ」自体が前例のない対象である。本研究ではデジタル展示映像の残し方、アクセスの方法、再現方法について検討し、その基本技術とアーカイブの基本方針を明らかにし、後年の研究者・制作者につなぐことを目的とした。 平成30年度(2018年度)は全天球カメラによる上映空間とコンテンツ記録(映像と音)、演出の再現性を確認し、問題点と課題を抽出することをめざした。また同時に、展示映像のなかでもマルチ映像、ドーム映像の作品分析を行い、記録のための条件整理を行うこととした。全天球映像については4Kレベルのカメラならびに2Kレベルのカメラを用いて予備的な撮影を行い、永続的なアーカイブと再現の検証をおこなった。特定の視野に限定してコンテンツを確認する場合は、映像の解像度不足は否めないが、あくまでも精度を求めた記録に固執しない限り、その有用性は確認された。それ以上は本研究が追究する範囲を超えていると考える。後者は2018年度の芸術工学会秋期大会において「『華麗なる賭け』におけるスプリット・スクリーン表現に関する研究~なぜこの映画はスプリット・スクリーンを使ったのか」、「天文教育を超えたプラネタリウム施設の利用と展望~福岡市科学館を事例として」として大学院生との共同研究成果を発表するに至った。 従前から展示映像のアーカイブ研究を進めてきたが総じて、フィルム(アナログ)とデジタルのコンテンツは、いずれも「デジタル映像」として残さざるを得ない状況ではあるが、この永続性とアクセスの安定性については、劇場映画を含めた他の映像も同様に課題が残ると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の課題は2つ設定した。ひとつは展示映像のアーカイブと再現にVR(Virtual Reality)を活用することである。展示映像は劇場映画と異なり、その上映空間が作品ごとに異なるという特殊な事情をもつ。したがって収録されたデータの再現には上映空間の情報も不可欠である。そのために360度の再現性を持つゴーグルの有用性が考えられる。 すでにゲームやエンターテインメントにおいてVRの利用は一般的となったが、展示映像情報を正確に再現しかつ技術的な安定性を勘案したとき、①世界標準がない②安定的技術域にない③ハードウエアの故障(メンテナンスの複雑さ)④複数対応の限界⑤衛生管理の問題・・・などの課題があることを明らかにした。もう一つは全天球カメラによる収録と全天球スクリーンによる再現の可能性である。VRの収録も同様に全天球カメラを使用するが、これは周辺視野領域も含めて上映するため、2次元の映像空間とはいえ上映空間の情報も読み取りやすい。また複数人数での鑑賞も可能なため情報共有も容易である。しかしながら①大空間の必要性②パースペクティブの不自然さがある③上映のためには「ドームマスター」といわれる仕様に合わせる必要がある④世界標準がない・・・・などの課題があることを明らかにした。 記録と保存の検討と同時に、現存するマルチ映像と現在のドーム映像作品の保存調査も同時進行した。その成果は2018年の芸術工学会において大学院生とともに発表した。デジタル映像のアーカイブは、フィルムのアーカイブが120年を超えるのに対して30年程度でありその基本方針も定まってない。しかしながら学術的に貴重な展示映像は毎年制作されており保存に資するまえに廃棄される現状である。本研究の初年度は前述の成果を踏まえてアーカイブの基本方針の原案を抽出した点で、おおむね順調な進捗であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の研究方針は、ドーム映像がデジタル展示映像の記録・保存に適切か否かの検討を行うことを主たる目的としている。当初計画にも記載したとおり、研究協力者(社)への取材や本テーマに関する協議は継続して実施する予定である。デジタル展示映像の再現の有力候補として「ドーム映像」を上げているが、今年度は関連するコンテンツを20作品を対象として分析を行う。また技術的側面からはつくば科学万博記念財団(エキスポセンター)ならびに福岡市科学館の協力を得て推進する予定である。すでに内諾を得ている。初年度の研究過程において、とくにドーム映像の撮影と編集でより高度な技術を必要とすることが判明したため、今年度は九州大学芸術工学研究院の石井達郎准教授(専門は映像表現、情報の視覚化)を研究分担者として協力を得ることとした。当初計画にはなかったが、これでより精度の高い成果を得ることができると考えられる。 具体的な推進方法としては、収録したコンテンツは展示映像空間全体の記録と再現を、福岡市科学館の小型ドームシアタースクリーン(準備室内の直径2mのシミュレーションスクリーン)において実験的に再現し、その効果と課題の検証を行う(科学館の了解済み)。最終的には現在のデジタル展示映像が空間デザインならびに映像・音声ともに記録・保存・疑似的な再現の手段として有効であることを確認したい。また後年においてこの記録データが過不足なく再現できるかについては、今年度の調査・分析をもって結論を出したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度には記録フィルムのテレシネ(デジタル化)費用として30万円の予算を計上していた。これは阿蘇火山博物館所蔵の5面マルチ映像(16mmフィルム15分もの×5巻)が対象である。研究資料としてフィルムの寄贈要請を阿蘇火山博物館に対して行っていたが、熊本地震の影響が残っており、寄贈にまで至らなかったため、そのテレシネ作業自体が実施できなかった。次年度には執行予定である。これに伴う打合せと、引き取り等の出張も繰り越しとなった。またテレシネ後の映像データを編集する作業についても同様に学生の謝金として予算化していたが、実施できなかった。これが主な理由である。 次年度は改めてフィルムの寄贈を要請したうえで、適切な予算執行を行う予定である。
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