明治維新を経て海外諸国との交流が活発化すると、日本を紹介する多数の英文の著作が刊行され、それが欧米の日本理解に大きな影響を与えたが、それらの大半は仏教者・仏教研究者の手になるものであった。しかし、これまでの研究においては、かかる大量の英文著の著作の刊行の意義が問われることがなく、それを資料として用いた研究も皆無であった。こうした研究の空白に挑むべく、本研究は次の点を明らかにすることができた。①明治維新から戦前までの期間に刊行された仏教者による英語のテクストを網羅的に収集し、その全体像を明らかにした。②時代背景を視野に収めつつその分析を進めることによって、英語テクスト大量刊行の歴史的意義を解明した。③その成果を既存の近代仏教研究とする合わせることによって、通説的な近代仏教像の書き換えを行った。明治・大正・昭和初期における英語著作や英語での講演を通して大乗仏教の存在意義を発信し続けた多くの仏教者・仏教研究者たちが、近代仏教研究対象になっている中で、仏教者としての岡倉天心は近代仏教研究の視野には入ってこなかった。天心とインドの詩人、思想家のラビンドラナート・タゴールとの深い知的交流はタゴールの日本文化および大乗仏教理解を深化させ、タゴールと多くの日本人仏教者たちとの知的交流を促進し、それは日本における仏教改革・近代化の潮流と深く交差しながら進展していき、相互に大きな影響力を発揮した点も明らかにすることができた。 ④近代においてはインドを始めとするアジアの諸地域でも仏教者による英語テクストが出版されている。それらを歴史的なコンテクストの中で比較考察することによって、英語テクストと言う視点からアジアの近代の共通性と多様性に光を当てるとともに、アジア仏教への日本仏教の位置付けを試みた。
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