研究課題/領域番号 |
18K18488
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
中川 眞 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 特任教授 (40135637)
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研究分担者 |
中川 克志 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 准教授 (20464208)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | サウンドアート / 20世紀アート史 / 知覚 / 環境 / アーカイブ / 身体性 |
研究実績の概要 |
本研究は、①サウンドアートを学的対象として位置づけ(サウンドアート学の確立)、②日本のサウンドアートの独自性を解明し、③アーティストの手元に散在している諸資料・作品のデータベース化すること、以上の3点を目的としている。研究の順序としては、この逆で③→②→①と取り組むこととしている。すなわち①のサウンドアート学の確立が最終の目的である。 平成30年度は、③をメインとして取り組んだ。京丹後市に在住する鈴木昭男氏は自らのアート関連の大量の資料を倉庫に保管しており、そのデータベース化に取り組んだ。和歌山県立近代美術館の学芸員である奥村一郎氏の協力のもと、将来において研究者などへの供覧・使用可能なフォーマットをファイルメーカーにて作成し、宮北裕美氏の協力で約700件の入力を行なった。また和歌山県立近代美術館にて開催された鈴木昭男展の最終日に、研究代表者である中川眞が鈴木昭男氏とトークショーを行い、創作やパフォーマンスのプロセスについてなどの討論を行ない、初期から現在に至るまでの鈴木昭男氏の美的基準や方法論が明らかとなった。 日本のサウンドアートの独自性を解明するためには、海外のサウンドアートとの比較が必要となるが、平成30年度はアジアに照準を合わせて実践的調査を行なった。代表者の中川眞はハノイの音響アーティストのスタジオを訪問しインタビューを行なった。またバンコクでは音を通したコミュニティアートのフォーラムを実施し、小島剛、岩渕拓郎両氏のアプローチに焦点を当てて、両氏とともに議論を行なった。分担者の中川克志は、台湾のサウンドアートについての論文を執筆するなど、アジアにおけるサウンドアートの実態研究に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画書を作成した当初は、平成30年度は、「①作品・パフォーマンス情報(創作メモ・スケッチ、カタログ、広報資料、批評、雑誌・新聞記事、記録映像 、音響資料・音源、インタビュー記録など)を作家別に網羅的に集め、整理(データベース化)することから始める。対象作家としてはサウンドアート第一世代の鈴木昭男、藤本由起夫、銅金裕司などにアプローチするが、鈴木だけでも衣装ケース200箱の資料の存在が確認されており、データベース化作業は30年度は鈴木のみになる可能性もある。また、和歌山県立近代美術館ならびに熊野古道なかへち美術館にて開催される鈴木昭男展のドキュメント制作(動画など)に取り組む。さらに、サウンドアートの一つの潮流である「ラジオアート」に着目し、年度後半においてラジオアート・フォーラムを開催する。研究協力者として奥村一郎氏、宮北裕美氏に委嘱する」とした。上記の中の鈴木昭男氏のアーカイブ作成(データベース化)は順調に進んでいるが、ラジオアート・フォーラムは実施できず、R1年度の6月にレクチャーシリーズとして行うこととなった。そういう点では、若干遅れを見せているが、R2年度に実施する予定であった、アジアでの調査、実践(ベトナム、タイ)を先取りして行うことができた。また台湾におけるサウンドアート(主として王福瑞の事例調査)も順調に開始できたため、トータルとしては「おおむね順調に進展している」と言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、鈴木昭男氏の業績に関するデータベース化を着実に進めるとともに、日本のサウンドアートの独自性の解明に着手する。そのため、藤本由起夫氏、銅金裕司氏など日本におけるサウンドアートの第一世代に焦点を当ててインタビュー調査などを実施する。また、アジアでの調査を引き続き実施する。台湾、インドネシアの予定である。ラジオアートについては、レクチャーなどをシリーズ化し、そのドキュメンテーションを行う。 平成32年度は、サウンドアートの学的対象としての位置づけ(サウンドアート学の確立)を視野にいれた研究を行う。比較考察のためにUSAあるいはドイツにおいてフィールドワークを行う。そして、それまでの2年間の実践研究を踏まえた上で、論文(英語を主とする)を国際ジャーナルに投稿し、サウンドアートの理論的側面を強化する。結果として、20世紀のアート史の書き換えをもくろむ。サウンドアートの興隆はサウンドスケープの登場と軌を一にして、視覚の特権性に対して聴覚の復権を主張する。その探求は芸術学の方法論を大きく転換させる可能性が高い。同時に、アカデミズムとは一線を画す、批判的音楽 critical music あるいはもうひとつの音楽 alternative music の系譜を浮かび上がらせ、20世紀のアート史の再検討を促すための理論的研究の成果をあげるのが最終目標である。これらの研究に関しては、協力者として奥村一郎氏、宮北裕美氏、Bob Edrian Tri adi氏(インドネシア、バンドン市在住)、櫻田和也氏を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成31年3月に、それまでと同様の鈴木昭男氏作品のデータベース化作業を実施予定であったが、氏が東京都現代美術館における改装記念のインスタレーション(恒久設置)を受注(平成31年3月末に完成)したため、3月全体のデータベース化作業を休止せざるを得なくなった。そのため人件費充当分に余剰が生じ、次年度使用となった。
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