研究課題
2022年度の主要な調査活動は、(1)蓄積・整備・分析してきた資料の解釈および精緻化と、(2)副産物的な成果として開発した母語話者向け正書法と子供向けグイ語識字教育のための素材整備だった。本来予定していたボツワナ共和国カラハリ地域における現地調査はコロナ感染状況がいぜんとして深刻なため実現することができず、その実施は研究期間を延長して、2023年度にする申請を行い承認を得た。上記(1)については東京に滞在中のグイ語・ガナ語話者の協力を得て、資料分析結果の再精査を進めることができた。とくに、これまで進めてきたクリック獲得において観察される幼児の初期音韻プロセスと、グイ語・ガナ語間に見られるクリック・非クリックの音対応との関係を、クリック子音複合体の子音音素連続解釈の文脈で再考した。その成果の一部は、日本英語学会特別シンポジウムにおける招待講演で報告した。(2)についても、東京に滞在中のグイ語・ガナ語話者の協力によって、音韻獲得過程にある幼児から始め得る母語識字教育の可能性を踏まえた語彙・テキスト正書法素材の試作を開始し、成果の刊行を計画できる段階になった。従来の研究では探求されてこなかった「多数のクリック子音をもつコイサン諸語の音素体系を子供はどのように獲得するか?」という問いに取り組む本研究は、昨年度までに引き続き、音韻獲得研究の射程を拡張しつつある。そこには、グイ語・ガナ語の継承の危機を踏まえた、幼児から始める初歩的母語識字という応用的研究分野への広がりを含めつつある。また、音韻獲得の研究指針に「獲得の難しい音類に関する探求」を組み入れることで、音韻獲得の言語相対性(個別性・類型性)の理論の発展に新しい光を与えつつある。
3: やや遅れている
コロナ禍により海外出張ができず、予定していたボツワナでの現地調査ができなかった。いっぽうで子供を伴って東京に滞在中の母語話者の協力でそれをある程度は補うことができた。
研究期間の延長の申請が認められたので、2023年度に追加資料収集のための現地調査をして、その分析結果をもとに、現在進めつつある解釈のいっそうの精緻化をする予定。また、2022年度から始めた東京滞在中のグイ語・ガナ語の母語話者(子供を伴って滞在中)との共同調査作業を通して、資料自体の拡大、分析結果の確認、子供向け識字素材の作成という応用的な研究への拡張を探求し、本挑戦的研究の新しい発展を試みる。
予定していた海外出張がCOVID-19の世界規模蔓延のため前年度と同様に実現できなかった。そのために次年度使用額が生じた。研究期間の延長を申請し認められた。延長期間に、国内滞在中の母語話者家族の協力も得ながら資料の収集と整備、分析を行うことと平行して、ボツワナにおける追加資料収集のための現地調査を実施する。
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Linguistic Typology
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10.1515/LINGTY-2022-0047