本研究では2020年度も引き続き、1945年から1960年代までオーストリアが「文化国家」として復興していくに際して文学がいかなる役割を果たしたのかについて,本研究はA.「『オーストリア』イデオロギーの残存」、B.「『暗い時代』の文化状況の残存、C.「冷戦下の文化をめぐる闘争」 、D.「新世代と旧世代のせめぎ合い」、E.「女性作家の台頭」という五つの観点から、主に首都ウィーンと,独自の文化的状況が存在した地方都市ザルツブルクの両都市を比較しつつ考察した。 資料調査、研究発信の方法はコロナ禍という状況ゆえに著しく制限されたため、既に収集した資料を分析するとともにZoomによる一般公開コロキウムを通じての口頭発表と論文発表に集中した。また、2020年度より始まった、本研究課題を発展させた科研費プロジェクト(JP20H01247)と連携させつつ進めた。 個別の成果としては、女性作家インゲボルク・バッハマンと1940-50年代のウィーン文壇との関連についてまとめた論文、バッハマン文学における「故郷」像を扱った論文、ゲアハルト・フリッチュにおける断片性の詩学についてまとめた論文、戦後オーストリアにおけるオーストリア・イデオロギーをめぐる言説について扱った口頭発表(以上前田)、シュテファン・ツヴァイクにおける「故郷」像を扱った論文、ツヴァイクの戦後における受容について扱った口頭発表(以上杉山)、トラークルの詩とその戦後の受容について扱った論文、ヴァインヘーバーの詩作における「オーストリア的なもの」のモチーフについて扱った口頭発表、イルゼ・アイヒンガーの詩作における「錆」の主題について扱った口頭発表(以上日名)等がある。
|