研究課題/領域番号 |
18K18505
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研究機関 | 椙山女学園大学 |
研究代表者 |
伊藤 信博 椙山女学園大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (90345843)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 四方四季 / 室町の思想 / 異界観 / 六道思想 / 地獄絵 |
研究実績の概要 |
御伽草子や内外に所蔵される絵写本など(絵巻、能・狂言、謡曲)に描かれる地獄や異界に焦点を当て、その言説や「四方四季」表現の分析から、室町の地獄や異界への嗜好を明らかにし、東アジアの「知」も含めた室町文芸共通の「知」表象と、その発展形態としての江戸文芸への影響を明らかとすることが本研究の目的である。 その目的に沿い、今年度は中国・北京にある法海寺壁画(明代、1450年代)に方角も東西南北と四天王に併せて描かれる四季の草花やギメ美術館図書館蔵『佛母大孔雀明王經』(明代、1550年頃制作)に描かれる草木や魚・蟲の擬人化表現や山・海・陸における神・仏の名を「尽くし言葉」のように並べ立てる表現法について考察した。 さらに、立教大学名誉教授・小峯和明氏や慶應義塾大学教授・石川透氏と共に、ギメ美術館や江戸絵写本が豊富に蔵されるチェスタービーティライブラリーの調査を行い、研究の方向性やその方法論について教えを請うた。さらに「釈迦の本地」における「四門出遊」表現に必ず四季の草花が描かれており、小峯氏から絵写本22点の画像の提供を受けた。 実は昨年度から個人研究費を使用し、この研究を始めており、「水陸斎・水陸斎図、掲鉢図からみた植物の擬人化の様相」徳田和夫編『東の妖怪、西のモンスター』勉誠出版、P262-286(2018年7月)の中でも、四方四季表現と中国の影響を考察している。さらに、「チェスター・ビーティー・ライブラリー本における四季の描かれ方」『チェスター・ビーティー・ライブラリー蔵絵巻絵本の最新研究」(2019年3月)や「六道輪廻と草木国土悉皆成仏思想」『異端とその宗教的言説―日本と西欧の比較史学の試み』(2019年3月)、名古屋大学などでも研究成果を報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究テーマとして挙げた異本「是害房絵巻」に関しては、2019年2月に「是害房絵巻と謡曲善界」と題する論文を仏語で発表したこと(『身体とメッセージ』(Edition Picquier)。 同じく研究テーマとして挙げていた『十二類絵巻』や「釈迦の本地」の多種類の画像を手に入れたことや『山家集』及び『毛吹草』による食物の季節表現を分類できたこと。擬人化された人物が持つ道具(房付槍、三叉、楽器など)も半分以上分類できたことがあげられる。 なお、江戸の四季表現であるが、現在多数の「型紙」画像を収集しており、着物の柄も含め、江戸の表象文化が室町とどう連動し、どう変化してきているのかを考察中である。こうした研究からは、図像本来が持つ歴史的過程や背景を超えた表象文化の創造性や新しい知見も見出されるであろうと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、植物・食物と「異界」表現、「四方四季」表象と地獄絵の表現などから、絵物語と室町文芸との関係性を考察する。特に連歌、本草和歌などにみられる植物・食物の位置付けを集中的に行う予定である。 そこでは、テクストや儀礼、図像の各水準の位相との関係を検討することや図像の総合的な宗教テクストとしての分析、器具・道具、植物、食物、動物などカテゴリー別の分類を総合して、四季として分類する。そして、絵写本と対照し、近似性や「四方四季」の有無の検討し、テクストや儀礼との位相を検討し、成果を文学的、歴史的背景の中で、統合し、室町文芸の創造性を問う。さらに、江戸への発展形態も意識した分析を継続する予定である。なお、本研究を推進するため、本年度は国際学会を開催、さらに年度を通じて、所属大学でセミナーを開催予定である(学習院女子・徳田、慶應・石川、立教・小峯、文化庁・生田ゆき氏など)。そのセミナーでは、テーマである「四方四季」をキーワードに考察していく予定でもある。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に購入予定であった古書が値上がりし、次年度の予算と合わせて購入する状況が生じたため。
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