令和3年度から引き続き、(1)「和漢洋語彙ネットワーク」の形成過程の研究、(2)語彙に関する言語問題や言語教育の研究、(3)形成過程と言語問題・言語教育を関係付けた研究、の三つを行った。令和4年度に実施した研究内容は、次の通りである。 (1)については、明治初期の文化・歴史・風俗・禍福の意味分野の語彙を取り上げ、文体差と意味差に焦点をあて、近代の語彙ネットワークが形成される様相を捉えた。また、明治初期の学術媒体としての理科教科書の語彙を取り上げ、学術専門語における語彙ネットワークの形成過程を考察した。さらに、日本語史の大きな流れの中で、和語を基盤として漢語・外来語が重なって語彙ネットワークを形成していく過程を概観した。 (2)のうち、まず、国立国語研究所の「『外来語』言い換え提案」で取り上げられた外来語が、最近20年間の新聞でどのように使われているかを観察し、定着しない外来語への対応方法の留意点を論じた。さらに、国語教育の分野で活発化している語彙教育の議論を踏まえて、近年整備された語彙資源の成果を語彙教育に役立てる方策を検討した。 (3)については、標準語の形成という言語問題をテーマとする書籍を編集し、日本語における標準語の形成史と、他言語の標準語の形成史とを対照し、そこで得られた視界を生かして、標準語形成における語彙の近代化の問題を考える研究発表を行った。 研究期間全体を通して、和語・漢語・外来語が層をなして重なることで語彙体系を更新していく日本語語彙ネットワークの特徴を、近年整備されたコーパスを多様な方法で用いることで、マクロ・ミクロの両面から記述することができた。そうやって解明した語彙の実態を踏まえて、語彙をめぐる言語問題や言語教育の議論に役立ついくつかの視点を提示することができた。
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