コラーゲンタンパクのアミノ酸配列の違いに基づく遺跡出土動物骨の同定は、ヨーロッパや北米を中心に近年急速に発達している。一方で、これらの地域と日本では生息する種が異なるため、作成された同定基準は日本の遺跡から出土した動物骨の同定に直ちに適用することはできない。そこで、本研究では日本の遺跡から出土した「同定不能骨片」の同定のために、主に日本産哺乳類を対象としたコラーゲンタンパク分析による骨の同定基準を作成し、実際に遺跡出土資料を同定するために研究を進めている。今年度は以下の研究をおこなった。
1.北海道大学総合博物館および国立科学博物館において現生の日本産哺乳類を中心とした骨標本の収集・作成を進めるとともに、収蔵されている標本をサンプリングし、コラーゲンタンパクの抽出とトリプシン切断断片のピークリストの作成をおこなった。分析の結果得られたピークには、特定の科や属、種あるいは特定の複数の分類群に特徴的に出現するものが含まれていた。一方で、先行研究で提示された各分類群の同定のための指標となるピークとの齟齬も複数認められることが分かった。
2.沖縄県石垣島の石城山遺跡、宮古島の友利天井、沖縄本島南城市のジーブアブ洞、静岡県浜松市の根堅遺跡、山形県高畠町の日向洞窟、長崎県壱岐市のカラカミ遺跡、同車出遺跡などから出土した「同定不能骨片」を含む遺跡資料を対象に、これまでに確認したピークリストの情報を利用してコラーゲンタンパク分析による同定を実施した。年代の古い沖縄県や静岡県の出土資料では良好な結果が得られていないものの、日向洞窟やカラカミ遺跡の資料では同定に成功し、これまでに蓄積したピークリストの情報が有用であることが確認できた。
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