文化財とその環境において、微生物、特にカビ(真菌)は、その胞子形成を介して塵と共に空中に拡散し、文化財表面に付着して増殖する。カビの大量増殖を一旦許してしまうと、現状の技術ではカビ汚染の制御が困難となる。従来法のほとんどがカビの発生を確認してからの対処法である。また、カビ発生前の対策は、温度、湿度のみをモニタリングするものである。 本研究では、見えないところでカビが発生してもニオイであれば早期発見が可能であるとの考えから、ニオイの定点観測によりカビ生育の初期段階で揮発性有機化合物(VOC)をモニタリングすることによって文化財カビ汚染を制御する方法を開発した。カビ種同定の従来法では、微生物を採取し、培養、遺伝子配列等による同定を行っているが、この一連の作業には時間がかかる。一方、カビ臭をそのまま装置に導入する、IMSおよびGCMS法は迅速な測定方法である。特に、IMS装置は小型で可搬型であるので、文化財現場でのオンサイト分析が可能であるから、本研究では、ドリフト時間の差により識別できるイオン移動度(IMS)法を応用して、カビ臭を対象にカビ発生を検出する技術を開発した。個々のVOC成分量に帰着させる従来型の判別モデルではなく、IMSスペクトルデータ全体を利用し、各測定点を基準にした網羅的な組み合わせで、それら間の比率データを説明変数として追加した。これを、洞窟や文化財などで多く発生する土壌由来カビを対象として、それらのカビから発生するMVOC (Microbial Volatile Organic Compounds)のイオンモビリティースペクトル(IMS)およびGCMSデータに適用した結果、カビ種類を同定可能であることが分かった。
|